部長と私の秘め事
「なら良かったけど……。……あと、沢山食べるとかって人の勝手だし、指摘する事じゃないでしょ。むしろ、他人が何を食べているかの感想を言うって、品のない行為だと私は思う。よっぽど仲が良くて、健康を心配して言うなら別だけどね。それ以外は、口を出すべき事じゃないんだよ。自分のお金で好きな物食べて、ご機嫌になって何が悪い? って思うし。……だから、褒めるにしても、わざわざ言う事じゃないなぁ……って」
確かに、言われてみればそうなのかもしれない。
すんなりと受け止めてしまった私は、ちょっとおバカなのかも。
そういえば、昭人と付き合っていた頃は、大盛りを頼んだら『恥ずかしいからやめろ』って言われて、人前では隠すようにしていた。
別に普通盛りだからと言って、お腹空いてつらいなんて事にはならないけど、素の自分を抑えていて、何だか息苦しかった。
尊さんと付き合うようになってからは凄く楽になって、他の人間関係にも恵まれたから、最近は素の自分でいるのが当たり前になっていた。
それって、気づきにくいけれど、とても幸せな事なんだと思う。
でも一般的に見れば、女性が大盛りを食べているのは、恥ずかしい事なのかもしれない。
勿論、「誰が何をしても自由。人に迷惑をかけなければOK」というのは分かっている。
けれど何でもパクパク食べる私の中にも、若干の羞恥心は残っているのだ。
周りの人が優しいから「恥ずかしがらなくていいんだ」と思えているけれど、全員が私を受け入れてくれる訳じゃない。
だから余計に、『可愛いですね』って褒めてくれたのはどういう意図だったんだろう、と思ってしまう。
恵の言う隠されたチクチク言葉なのか、それとも文字通りシンプルに褒めてくれたのか。
けど、彼女に直接聞く勇気はない。
「あれってどういう意味だったの?」なんて言えば、もしも友好的に接してくれていた場合、小鳥遊さんを傷つけかねない。
だからハッキリと自分が「嫌だ」と思う事が起こるまで、様子を見るべきなのかもしれない。
恵はポンポンと私の背中を叩いて言った。
「小さい違和感って大事だから、ちゃんと心に留め置いたほうがいいよ。あとになってから『あの時感じた違和感を、信じておけば良かった』ってなるパターンが多いから」
「うん、分かった。ありがとう」
そのあと、エレベーターに乗って、それぞれのフロアに戻り、また午後の仕事に戻った。
**
恵の心配は杞憂に終わるだろう。
そう思いつつも、心のどこかで小鳥遊さんを警戒していたけれど、すれ違った時に感じよく微笑んで挨拶してくれるし、立ち話をしても嫌な事を言われない。
鏑木さんたちは、これ以上私に関わるつもりはないみたいだし、仕事の妨害もないと思っている。
けど、私を鬱陶しそうに見てくるので、快くは思っていないんだろう。
それに引き換え小鳥遊さんは、用事があって秘書課に行った時、すぐ席を立って私に対応してくれる。
多分、他の人から嫌な事を言われる前に、すぐ終わらせる事によって、守ってくれているんだと思う。
だから、警戒していた気持ちはどんどん薄れ、「いい人だなぁ」としみじみ思うようになっていった。
気がつけば、ランチも私と恵、小鳥遊さんの三人で食べるのがデフォになっていた。
恵は彼女をあまり快く思っていないみたいなので、大丈夫かな? と心配だったけれど、表向きは話を合わせてくれている。
塩対応もしないし、普通に接してくれているので、もしかしたら恵も小鳥遊さんへの評価を改めたのかな? と感じていた。
「上村さん、今日のリップの色可愛いですね。どこのですか?」
小鳥遊さんにそう尋ねられたのは、お手洗いでだった。
最近はランチを終えて恵と別れたあと、少し小鳥遊さんと話すのがルーティンになっていた。
メイク直しをしていた時にリップの色を聞かれた私は、リップケースのお尻を見る。
「あー、カネボウの……。ルージュスターヴァイブラント……、の、V17……みたいです」
「発色良くてツヤもいいし、素敵ですね。まねっこしてもいいですか?」
「あ、はい。どうぞどうぞ」
コスメ好きとしては、自分がきっかけで誰かに広まっていくのは嬉しいものだ。
「ありがとうございます! ちなみにベースメイクとかはどうしてます?」
「BAさんに『ベースをクレドで揃えたら崩れません』って言われて、信じてます」
「それは心強い太鼓判ですね。アイシャドウは?」
確かに、言われてみればそうなのかもしれない。
すんなりと受け止めてしまった私は、ちょっとおバカなのかも。
そういえば、昭人と付き合っていた頃は、大盛りを頼んだら『恥ずかしいからやめろ』って言われて、人前では隠すようにしていた。
別に普通盛りだからと言って、お腹空いてつらいなんて事にはならないけど、素の自分を抑えていて、何だか息苦しかった。
尊さんと付き合うようになってからは凄く楽になって、他の人間関係にも恵まれたから、最近は素の自分でいるのが当たり前になっていた。
それって、気づきにくいけれど、とても幸せな事なんだと思う。
でも一般的に見れば、女性が大盛りを食べているのは、恥ずかしい事なのかもしれない。
勿論、「誰が何をしても自由。人に迷惑をかけなければOK」というのは分かっている。
けれど何でもパクパク食べる私の中にも、若干の羞恥心は残っているのだ。
周りの人が優しいから「恥ずかしがらなくていいんだ」と思えているけれど、全員が私を受け入れてくれる訳じゃない。
だから余計に、『可愛いですね』って褒めてくれたのはどういう意図だったんだろう、と思ってしまう。
恵の言う隠されたチクチク言葉なのか、それとも文字通りシンプルに褒めてくれたのか。
けど、彼女に直接聞く勇気はない。
「あれってどういう意味だったの?」なんて言えば、もしも友好的に接してくれていた場合、小鳥遊さんを傷つけかねない。
だからハッキリと自分が「嫌だ」と思う事が起こるまで、様子を見るべきなのかもしれない。
恵はポンポンと私の背中を叩いて言った。
「小さい違和感って大事だから、ちゃんと心に留め置いたほうがいいよ。あとになってから『あの時感じた違和感を、信じておけば良かった』ってなるパターンが多いから」
「うん、分かった。ありがとう」
そのあと、エレベーターに乗って、それぞれのフロアに戻り、また午後の仕事に戻った。
**
恵の心配は杞憂に終わるだろう。
そう思いつつも、心のどこかで小鳥遊さんを警戒していたけれど、すれ違った時に感じよく微笑んで挨拶してくれるし、立ち話をしても嫌な事を言われない。
鏑木さんたちは、これ以上私に関わるつもりはないみたいだし、仕事の妨害もないと思っている。
けど、私を鬱陶しそうに見てくるので、快くは思っていないんだろう。
それに引き換え小鳥遊さんは、用事があって秘書課に行った時、すぐ席を立って私に対応してくれる。
多分、他の人から嫌な事を言われる前に、すぐ終わらせる事によって、守ってくれているんだと思う。
だから、警戒していた気持ちはどんどん薄れ、「いい人だなぁ」としみじみ思うようになっていった。
気がつけば、ランチも私と恵、小鳥遊さんの三人で食べるのがデフォになっていた。
恵は彼女をあまり快く思っていないみたいなので、大丈夫かな? と心配だったけれど、表向きは話を合わせてくれている。
塩対応もしないし、普通に接してくれているので、もしかしたら恵も小鳥遊さんへの評価を改めたのかな? と感じていた。
「上村さん、今日のリップの色可愛いですね。どこのですか?」
小鳥遊さんにそう尋ねられたのは、お手洗いでだった。
最近はランチを終えて恵と別れたあと、少し小鳥遊さんと話すのがルーティンになっていた。
メイク直しをしていた時にリップの色を聞かれた私は、リップケースのお尻を見る。
「あー、カネボウの……。ルージュスターヴァイブラント……、の、V17……みたいです」
「発色良くてツヤもいいし、素敵ですね。まねっこしてもいいですか?」
「あ、はい。どうぞどうぞ」
コスメ好きとしては、自分がきっかけで誰かに広まっていくのは嬉しいものだ。
「ありがとうございます! ちなみにベースメイクとかはどうしてます?」
「BAさんに『ベースをクレドで揃えたら崩れません』って言われて、信じてます」
「それは心強い太鼓判ですね。アイシャドウは?」