部長と私の秘め事
「……やけに小鳥遊さんに肩入れするな?」
「……わ、悪いですか? ……私だって友達増やしたいんですよ」
「気持ちは分かる。……ただ、もう少し慎重に接したほうがいい」
尊さんにまで言われ、可愛いチャームをもらってルンルンしていた気持ちが萎んでいく。
ソファの上で膝を抱えると、尊さんは私の肩を抱いてポンポンと叩いてくる。
「悪い。嫌な気持ちにさせたい訳じゃないんだ」
「……うん。尊さんが私に忠告する時は、心配してくれての事だって分かってます」
彼はもう一度ポンポンと私の肩を叩いたあと、ソファの背もたれに手を置く。
そのあとしばらく、沈黙が落ちた。
気まずく思っていると、尊さんが口を開いた。
「大前提として、友達を増やしたい気持ちを否定しない。俺も、いい人だったらどんどん交流してほしいと思ってる。……ただ、色々慎重になってほしいとも思ってる」
「……はい」
「自分で言うのもアホみたいだが、俺は副社長で他の奴らが言うには〝イケメンハイスペック〟らしい。こんな訳アリの俺でも、狙ってる女性は大勢いる。……それに朱里だって〝高嶺の花〟に見えて『お近づきになりたい』『美人と一緒にいたら得をしそう』と思う奴がいるのは事実だ。……あぁ、朱里が高値の花じゃないって訳じゃなくて……。もっとこう、お前のいい所は見た目じゃなくて、愉快な女な所なんだよ」
「うい」
「それでな。……俺らみたいな年齢になったら、無理して友達を増やそうとしなくてもいいと思ってる。あくまで俺は、だけど。凄く消極的な考え方かもしれんが、恋愛でもそうだけど、一から人と関係を構築していくってエネルギーが要るだろ。そして期待していた人と違ったら落胆して、また〝次〟を探す。そうしてまで新しい友達がほしいか? って思ってしまうんだ。恋愛の場合はその先に結婚があるから、また別だ。でも、今仲良くしてる人たちじゃ満足できないか? 中村さんも、エミリも三ノ宮さんも、朱里を凄く大切に想ってくれている。……俺が嫉妬するぐらいな。あれだけ想ってくれる人は、なかなかいねぇぞ」
「……そうですね」
尊さんの言いたい事は分かる。
分かるだけに、まだ小鳥遊さんのすべてを知っていないのに、全否定された気持ちになって、悲しくなってしまう。
――彼女が何も悪くなかったら?
そう言い返したい気持ちを、グッと抑えた。
「前にも言ったけど、人生って自分が思ってるよりすげぇ短いんだよ。俺はそう思ってるからこれ以上無理に友達探しをしようとせず、今いる人を大切にしている。朱里となら国内海外問わず色んな所に行きたいし、時間が足りねぇ。涼や中村さんと一緒に旅行するって言ったら、もっと必要だ。それに、結婚したら子供の事も考えないとならねぇだろ? そうしたら朱里には〝ママ友〟ができる。否が応でも新しい人と付き合っていくんだ。その中で気の合う人が見つかるかもしれないし、今後副社長夫人になって、パーティーやらに参加していく中、お前を大切に扱ってくれる人と出会うかもしれない。……持論だけど、清く正しくあれば、向こうからいい縁が転がってくる。……逆に俺は、妙なタイミングで近づいてくる人を警戒するぐらいで丁度いいと思ってる。上手くいってそうな奴に近づいてくる奴は、大体底が知れてるんだよ」
私はもう何も言えず、コクンと頷いた。
「朱里、ちゃんと返すから、このチャーム、一旦預かっていいか?」
「……はい」
返事をすると、尊さんは私の頭をポンポンと撫で、「ごめんな」と囁きチュッと音を立てて頬にキスしてきた。
**
朱里に「寝る準備をしたら?」と言ったあと、俺は書斎に入ってデスクの上にチャームを放った。
握った瞬間に分かった。
この手のチャームにしては、不自然なまでに綿がパンパンに詰められて固いし、上手く繕ってあるが、縫い目が若干雑だ。
商品として工場で作られたというより、多少裁縫の上手い素人が塗った縫い目だ。
俺自身、手芸に造詣が深い訳ではないが、常日頃、スーツや革製品など様々な物の縫い目を見ているから、嫌でも乱れが分かるのだ。
(この辺だっけか)
俺はあまり使わない引き出しを開け、裁縫道具を出す。
そしてデスクのライトをつけ、まずチャームの写真を撮ってから、手芸用のハサミを使い、チャームの糸を切っていった。
慎重に糸を断ち続けると、やがて中から大量の綿がはみ出てくる。
明らかに詰め過ぎだ。
それに見た目から、異なる二種類の綿が詰められているのが分かった。
そして――。
「……わ、悪いですか? ……私だって友達増やしたいんですよ」
「気持ちは分かる。……ただ、もう少し慎重に接したほうがいい」
尊さんにまで言われ、可愛いチャームをもらってルンルンしていた気持ちが萎んでいく。
ソファの上で膝を抱えると、尊さんは私の肩を抱いてポンポンと叩いてくる。
「悪い。嫌な気持ちにさせたい訳じゃないんだ」
「……うん。尊さんが私に忠告する時は、心配してくれての事だって分かってます」
彼はもう一度ポンポンと私の肩を叩いたあと、ソファの背もたれに手を置く。
そのあとしばらく、沈黙が落ちた。
気まずく思っていると、尊さんが口を開いた。
「大前提として、友達を増やしたい気持ちを否定しない。俺も、いい人だったらどんどん交流してほしいと思ってる。……ただ、色々慎重になってほしいとも思ってる」
「……はい」
「自分で言うのもアホみたいだが、俺は副社長で他の奴らが言うには〝イケメンハイスペック〟らしい。こんな訳アリの俺でも、狙ってる女性は大勢いる。……それに朱里だって〝高嶺の花〟に見えて『お近づきになりたい』『美人と一緒にいたら得をしそう』と思う奴がいるのは事実だ。……あぁ、朱里が高値の花じゃないって訳じゃなくて……。もっとこう、お前のいい所は見た目じゃなくて、愉快な女な所なんだよ」
「うい」
「それでな。……俺らみたいな年齢になったら、無理して友達を増やそうとしなくてもいいと思ってる。あくまで俺は、だけど。凄く消極的な考え方かもしれんが、恋愛でもそうだけど、一から人と関係を構築していくってエネルギーが要るだろ。そして期待していた人と違ったら落胆して、また〝次〟を探す。そうしてまで新しい友達がほしいか? って思ってしまうんだ。恋愛の場合はその先に結婚があるから、また別だ。でも、今仲良くしてる人たちじゃ満足できないか? 中村さんも、エミリも三ノ宮さんも、朱里を凄く大切に想ってくれている。……俺が嫉妬するぐらいな。あれだけ想ってくれる人は、なかなかいねぇぞ」
「……そうですね」
尊さんの言いたい事は分かる。
分かるだけに、まだ小鳥遊さんのすべてを知っていないのに、全否定された気持ちになって、悲しくなってしまう。
――彼女が何も悪くなかったら?
そう言い返したい気持ちを、グッと抑えた。
「前にも言ったけど、人生って自分が思ってるよりすげぇ短いんだよ。俺はそう思ってるからこれ以上無理に友達探しをしようとせず、今いる人を大切にしている。朱里となら国内海外問わず色んな所に行きたいし、時間が足りねぇ。涼や中村さんと一緒に旅行するって言ったら、もっと必要だ。それに、結婚したら子供の事も考えないとならねぇだろ? そうしたら朱里には〝ママ友〟ができる。否が応でも新しい人と付き合っていくんだ。その中で気の合う人が見つかるかもしれないし、今後副社長夫人になって、パーティーやらに参加していく中、お前を大切に扱ってくれる人と出会うかもしれない。……持論だけど、清く正しくあれば、向こうからいい縁が転がってくる。……逆に俺は、妙なタイミングで近づいてくる人を警戒するぐらいで丁度いいと思ってる。上手くいってそうな奴に近づいてくる奴は、大体底が知れてるんだよ」
私はもう何も言えず、コクンと頷いた。
「朱里、ちゃんと返すから、このチャーム、一旦預かっていいか?」
「……はい」
返事をすると、尊さんは私の頭をポンポンと撫で、「ごめんな」と囁きチュッと音を立てて頬にキスしてきた。
**
朱里に「寝る準備をしたら?」と言ったあと、俺は書斎に入ってデスクの上にチャームを放った。
握った瞬間に分かった。
この手のチャームにしては、不自然なまでに綿がパンパンに詰められて固いし、上手く繕ってあるが、縫い目が若干雑だ。
商品として工場で作られたというより、多少裁縫の上手い素人が塗った縫い目だ。
俺自身、手芸に造詣が深い訳ではないが、常日頃、スーツや革製品など様々な物の縫い目を見ているから、嫌でも乱れが分かるのだ。
(この辺だっけか)
俺はあまり使わない引き出しを開け、裁縫道具を出す。
そしてデスクのライトをつけ、まずチャームの写真を撮ってから、手芸用のハサミを使い、チャームの糸を切っていった。
慎重に糸を断ち続けると、やがて中から大量の綿がはみ出てくる。
明らかに詰め過ぎだ。
それに見た目から、異なる二種類の綿が詰められているのが分かった。
そして――。