部長と私の秘め事
「……おい、聞いてるんだろう? 二度とこんな真似をするな。まだ一度目だから忠告で済ませてやる。二度目はない。覚えておけ」

 俺は黒くて小さな機械――盗聴器に向かって凄む。

「証拠写真は撮らせてもらうぞ」

 わざと声に出して言ったあと、俺は綿をはみ出させたチャームと、その中に埋もれている盗聴器を、パシャパシャと撮った。

 そのあと少し考え、トントンとスマホを操作して、盗聴器の側でお経のフリー音源を流し始めた。

(除霊……、じゃねぇか。まだ生きてるもんな。でも生き霊ぐらい飛ばしてそうだ)

 そんな事を考えながら、俺はモスグリーンの糸を出し、適度に綿を戻して丁寧に縫い直していった。

 お経を聞きながら、というのが実にシュールだが、逆に単純作業に向いているのかもしれない。

 学生時代ぶりに裁縫をして新鮮な気持ちになり、朱里が持つ物だからと思って丁寧に縫った。

 正直、盗聴器が入っていた物なんて朱里に戻したくないが、まだ小鳥遊に幻想を抱いているなら、それを壊す事もないだろう。

 裁縫が終わったあと、俺はお経を止め、盗聴器の電源を切った。

「無駄に性能がいいのも困ったもんだな」

 俺は呟き、溜め息をつく。

 高性能なものなら連続録音時間が長いし、大元のパソコンで要らないデータを削除していけば、空いた容量で色んな音を拾えるだろう。

 このまま小鳥遊がフェードアウトしてくれるなら、朱里は無駄に傷付かなくて済む。

 ただ、保険は入れておく事にして、エミリに報告を入れていおいた。

 そのあと、中村さんにメッセージを送る。

【朱里が秘書課の小鳥遊という社員から、盗聴器入りのチャームをもらった。脅しておいたから今後目立つ真似はしないだろうが、念のため側で警戒してくれると助かる】

 すると、ほどなくしてメッセージに既読がつき、返事が来た。

【了解です。あのクソ女、怪しいと思ったらやっぱりか】

【朱里を傷つけたくないから、盗聴器の事は知らせてない。今後、小鳥遊が寄りつかなくなって朱里が悲しむようだったら、適当に誤魔化してほしい。何でも真実を伝えればいいってもんじゃないから】

【そっすね。朱里は何も知らないほうがいいです】

 そのあとメッセージは終わり、俺はスマホを置いて溜め息をついた。

 これで小鳥遊の件についてはケリがついたと思っていいが、シルバーウィークになれば朱里の同窓会がある。

「何もないといいけどな……」

 俺はそう呟き、除霊されたチャームを手に書斎を出た。



**



 尊さんに優しく諭された私は、考えを改める事にした。

 寂しいけれど尊さんの言う事にも一理あって、確かに小鳥遊さんが近づいてきたタイミングに違和感はある。

 だからもう少し慎重に彼女の言動を見て、判断しようと思った。

(……あれ)

 けれどお昼に社食に行った時、小鳥遊さんは姿を現さなかった。

 ここ十日近くずっと顔を合わせていたから、急にいなくなると変な感じだ。

 ソワソワしながら、いつものように大盛りパスタを食べていると、中華丼を食べている恵が尋ねてきた。

「そんなに小鳥遊さんがいないの不安?」

「いや、不安っていうか……、最近毎日いたから変だなーって」

「姿を見せない事が答えなんじゃないの? 〝本当に〟友達になりたいって思うなら来るはずだよ。……でも、何か別の感情を持っていたなら、そんな自分が恥ずかしくなって朱里の顔を見られなくなったんじゃない?」

「うん……」

 私はパスタをフォークでクルクル巻きつつ、曖昧に頷く。

「正直さ」

 恵はスプーンを置き、軽くテーブルを叩く。

「私がいるのに、他の女求められんのやだな」

「んっ」

 久し振りの告白モードになり、私はピッと背筋を伸ばす。

 恵は溜め息をつき、水を飲んでから言う。

「……この歳になって、友達に嫉妬するなんて子供じみてるって分かってるよ。でも、私ほど朱里を理解している人はいないって自負がある。ずっと一緒に過ごしてきたし、旅行に行っても喧嘩しなかったし、私ほど朱里と相性のいい人はいない」

「……はい」

 私はまっすぐ見つめてくる恵の眼差しにドキドキし、頷く。

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