部長と私の秘め事
「お局がいるからですよ!」
トイレ内に、小鳥遊さんの声がキンッと響く。
いいぞ、もっとやれ。
あんたみたいな性悪は、可愛子ぶってるより本性剥き出しにしていたほうがお似合いだよ。
「あの人達は自己中心的で、上の人たちは事なかれ主義だし、私が気を回してあげないと、秘書課は円滑に動かないんです」
そこまで「私、重要人物なんです」って言えるの凄いね。
「……そうやって『私、仕事できるんです』アピールしてるけど、ぶっちゃけ、小鳥遊さんって副社長秘書狙いなんでしょ? 社長秘書じゃ駄目なの? 正妻の子じゃない弟より、兄のほうが有望だと思うけど」
篠宮さん、すまん。
私は心の中で彼に謝り、小鳥遊さんにカマをかける。
すると、予想外の反応があった。
「どうしてそんな酷い事を言うんですか!? みんな副社長にばっかり当たりが強くて、可哀想だと思わないんですか!? 副社長は速水部長だった頃から、仕事ができるし部下に気を配れる人だし、器の大きな人でした。中村さんだって分かってるでしょう?」
「まぁ、有能だとは思うけど。……でも、玉の輿狙うなら、兄のほうが強くない?」
さらに掘り下げると、小鳥遊さんは「っっっっはぁー…………」と大きな溜め息をついた。お、なんだなんだ?
彼女は言いたくなさそうな顔をしていたけれど、私が「納得できないと動かない」という態度をとっていたからか、渋々と打ち明けた。
「……傘をもらったんです」
「はい?」
「大雨が降っていた日、傘を忘れてエントランスで雨脚が弱くなるのを待っていたら、外での用事から戻ってきた速水部長が、ビルの一階にあるコンビニで傘を買ってくれて、『お疲れさん』って言ってくれたんです」
速水~!!
私は心の中で絶叫する。
いや、彼はそういう人だ。
別に小鳥遊さんに好意なんてなかっただろうし、困っている人がいたら自然と手を差し伸べる人だ。
だから部下からも信頼されていたし、綾子さんたちみたいに強く憧れる人もいた。
朱里だってそんな篠宮さんが好きなんだろう。
でも時として、顔が整って社会的地位もある人が優しい振る舞いをすると、勘違いする人が生まれてしまう。
「はぁ……」
急に疲れを覚えた私が溜め息をつくと、小鳥遊さんはムッとした顔をする。
「別にこれで『私に気がある』と思うほどおめでたくありません。……でも、想うだけ自由じゃないですか」
小鳥遊さんにそれなりの理由があると知った私は、髪を掻き上げて言う。
「想うのは自由だよ? それは肯定する。……でも、なんで朱里を巻き込んだ?」
話を元に戻すと、彼女は視線を泳がせ、ボソボソと言う。
「……上村さんなら美人だし、引く手あまたじゃないですか。何も副社長じゃなくたって、彼女ぐらいのスペックなら、他にも幸せにしてくれる人はいます。……でも私には副社長しかいないんです。……だから……」
「ハァ? だから『仲よくなったあとに、さり気なく適当な男を紹介して離れさせようとした』? それでフリーになった副社長に、『私がいます』って寄り添うつもりだった?」
図星だったのか、小鳥遊さんはあれだけベラベラ喋っていたのに、今度は何も言い返さなかった。
「今の小鳥遊さんが、どういう立ち位置か教えてあげようか? 心の底から想い合って、結婚秒読みの二人を前に、『私のほうが彼を幸せにしてあげられる!』って、友達のフリをして近づいて、華麗に裏切って別れさせようとしてる、クイーン・フレネミーだよ」
「だからどうして、そんな酷い言い方するんですか!」
「そうでもないと、あんたみたいな勘違い女が暴走したまま止まらないからだろ! いい加減自覚しろよ、この害悪が!」
「中村さんのほうこそ、口が悪いし害悪じゃないですか!」
「あー、はいはい。悪役上等。私は友達のためなら何だってできる。それに、こんな事ぐらいで呆れられる友達、恋人もいないの。ごめんね」
サラッと言うと、小鳥遊さんは顔を真っ赤にし、大きな声を上げた。
「でも、もう終わりです! 〝私〟が盗聴器をしかけたって副社長にバレてしまったんですから! 傘をもらった時、副社長は私の名前なんて知らなかっただろうし、顔だってその時限りで覚えていなかったと思います! でも今はもう……!」
彼女はクシャリと表情を歪めると、両手で顔を覆い「ああああああ……!」と声を上げた泣き始めた。
(……やりすぎたか)
後悔した時――。
トイレ内に、小鳥遊さんの声がキンッと響く。
いいぞ、もっとやれ。
あんたみたいな性悪は、可愛子ぶってるより本性剥き出しにしていたほうがお似合いだよ。
「あの人達は自己中心的で、上の人たちは事なかれ主義だし、私が気を回してあげないと、秘書課は円滑に動かないんです」
そこまで「私、重要人物なんです」って言えるの凄いね。
「……そうやって『私、仕事できるんです』アピールしてるけど、ぶっちゃけ、小鳥遊さんって副社長秘書狙いなんでしょ? 社長秘書じゃ駄目なの? 正妻の子じゃない弟より、兄のほうが有望だと思うけど」
篠宮さん、すまん。
私は心の中で彼に謝り、小鳥遊さんにカマをかける。
すると、予想外の反応があった。
「どうしてそんな酷い事を言うんですか!? みんな副社長にばっかり当たりが強くて、可哀想だと思わないんですか!? 副社長は速水部長だった頃から、仕事ができるし部下に気を配れる人だし、器の大きな人でした。中村さんだって分かってるでしょう?」
「まぁ、有能だとは思うけど。……でも、玉の輿狙うなら、兄のほうが強くない?」
さらに掘り下げると、小鳥遊さんは「っっっっはぁー…………」と大きな溜め息をついた。お、なんだなんだ?
彼女は言いたくなさそうな顔をしていたけれど、私が「納得できないと動かない」という態度をとっていたからか、渋々と打ち明けた。
「……傘をもらったんです」
「はい?」
「大雨が降っていた日、傘を忘れてエントランスで雨脚が弱くなるのを待っていたら、外での用事から戻ってきた速水部長が、ビルの一階にあるコンビニで傘を買ってくれて、『お疲れさん』って言ってくれたんです」
速水~!!
私は心の中で絶叫する。
いや、彼はそういう人だ。
別に小鳥遊さんに好意なんてなかっただろうし、困っている人がいたら自然と手を差し伸べる人だ。
だから部下からも信頼されていたし、綾子さんたちみたいに強く憧れる人もいた。
朱里だってそんな篠宮さんが好きなんだろう。
でも時として、顔が整って社会的地位もある人が優しい振る舞いをすると、勘違いする人が生まれてしまう。
「はぁ……」
急に疲れを覚えた私が溜め息をつくと、小鳥遊さんはムッとした顔をする。
「別にこれで『私に気がある』と思うほどおめでたくありません。……でも、想うだけ自由じゃないですか」
小鳥遊さんにそれなりの理由があると知った私は、髪を掻き上げて言う。
「想うのは自由だよ? それは肯定する。……でも、なんで朱里を巻き込んだ?」
話を元に戻すと、彼女は視線を泳がせ、ボソボソと言う。
「……上村さんなら美人だし、引く手あまたじゃないですか。何も副社長じゃなくたって、彼女ぐらいのスペックなら、他にも幸せにしてくれる人はいます。……でも私には副社長しかいないんです。……だから……」
「ハァ? だから『仲よくなったあとに、さり気なく適当な男を紹介して離れさせようとした』? それでフリーになった副社長に、『私がいます』って寄り添うつもりだった?」
図星だったのか、小鳥遊さんはあれだけベラベラ喋っていたのに、今度は何も言い返さなかった。
「今の小鳥遊さんが、どういう立ち位置か教えてあげようか? 心の底から想い合って、結婚秒読みの二人を前に、『私のほうが彼を幸せにしてあげられる!』って、友達のフリをして近づいて、華麗に裏切って別れさせようとしてる、クイーン・フレネミーだよ」
「だからどうして、そんな酷い言い方するんですか!」
「そうでもないと、あんたみたいな勘違い女が暴走したまま止まらないからだろ! いい加減自覚しろよ、この害悪が!」
「中村さんのほうこそ、口が悪いし害悪じゃないですか!」
「あー、はいはい。悪役上等。私は友達のためなら何だってできる。それに、こんな事ぐらいで呆れられる友達、恋人もいないの。ごめんね」
サラッと言うと、小鳥遊さんは顔を真っ赤にし、大きな声を上げた。
「でも、もう終わりです! 〝私〟が盗聴器をしかけたって副社長にバレてしまったんですから! 傘をもらった時、副社長は私の名前なんて知らなかっただろうし、顔だってその時限りで覚えていなかったと思います! でも今はもう……!」
彼女はクシャリと表情を歪めると、両手で顔を覆い「ああああああ……!」と声を上げた泣き始めた。
(……やりすぎたか)
後悔した時――。