部長と私の秘め事
「それでさ~」
トイレに女性が数人入ってきて、彼女たちは私と泣いている小鳥遊さんを見て、目を丸くする。
「小鳥遊、どうしたの?」
「鏑木先輩……っ」
その会話、名前だけですぐ状況を理解した。
「この人、他部署の人なんですけど、急に言いがかりをつけてきて……っ、酷いんです!」
一瞬同情したけど、やっぱり「こいつ駄目だ」と感じた。
失恋してそれで諦めるなら、これ以上言及する必要はないと思った。
でも小鳥遊さんの根性は変わっていない。
現れた仲間を盾にして「泣かされた私、可哀想」ムーブをするなら、これ以上同情する必要はないと判断した。
〝先輩〟として頼られた鏑木が、私を睨んで何か言う前に先制攻撃をした。
「私はただ、小鳥遊さんが私の友達に盗聴器を仕込んだから、事情を聞いていただけです」
臆さずに言うと、逆に鏑木たちはギョッとした表情で小鳥遊さんを見た。
「ひ……っ、酷い! 誹謗中傷ですよ!」
真っ赤な顔をして怒鳴った小鳥遊さんを、私は半眼になって睨む。
「先に犯罪まがいの事をした人は誰? 『友達になりたい』って嘘をついてまで近づいて、盗聴器をしかけて、憧れの副社長の私生活を覗きたかったんでしょ。困っていた時に傘を買ってもらって恋に落ちて、一途に想っていたんだもんね? もしかして、秘書課の皆さんも、小鳥遊さんの恋を応援してました?」
我ながら意地の悪い事を言うと、鏑木が目を剥いて小鳥遊さんを睨んだ。
はいはい、鏑木も篠宮さん狙いね。
しかし今の私、余裕でヴィラン役をやれそうだ。勿論、プリンセスは朱里で。
そしてヴィランとプリンセスの二人で、幸せに暮らしていくのだ。
プリンス二人が追いかけてきそうだけど……。
そんな事を考えている間、明らかに小鳥遊さんと鏑木たちの間に、ギスッとした空気が生まれたのを感じた。よし。
小鳥遊さんは鏑木たちが篠宮兄弟推ししているのを、興味のないフリをして見守り、表向き〝外野〟として応援していたんだろう。
でも本心では「本当に副社長を理解できるのは、私だけ。あの人たちとは違う」と思っていたに違いない。
よし、篠宮狙いがバレて、内輪揉めしろ。
私は〝知らないフリ〟をして〝先輩〟に頼んだ。
「鏑木さんも秘書課の方ですか? 小鳥遊さんが誰を好きでも自由ですが、行き過ぎた真似をすると、秘書課全体に影響が及ぶと思いますから、注意したほうがいいですよ。確かに社長も副社長も若くて素敵な人ですから、浮き足だってしまう気持ちは分かります。でも仕事に私情を挟むような学生の延長みたいな人、社会人とは言えませんから」
「……そ、そうだね」
鏑木は心当たりがありすぎるのか、引きつった顔で頷く。
「芸能人みたいな方たちだから、ミーハーな気持ちを持つのは分かりますけど、社長たちはただの一般人です。想えば笑いかけてくれる、なんてファンサービスしません。副社長が小鳥遊さんにビニ傘を買ったのも、大雨の中帰るのを気の毒に思ったから、という親切心に過ぎません。なのに『脈アリ? 上手くいくかも』なんて、あまりにイタすぎます。ファンの域なら、まだ夢女で済ませられたかもしれませんが、行動に出た時点でストーカーですからね」
小鳥遊さんはみんなの前で侮辱されたと思ったのか、赤面して梅干しみたいな顔色になっている。
「そもそも、『自分なら上村さんより副社長を理解できる』なんて、思い上がりもいいところです。その上、近づいて盗聴しようとしたり、別れさせようとするヤバイ女、ハイスペック男が相手にする訳がありませんしね? そのうち、秘書課にいるのいい事に、ミスを誘発するように、仕事の邪魔をしたりして」
あくまで小鳥遊さんに対して言ったつもりだけど、遠回しに鏑木たちの事も指摘する。
恐竜みたいに鈍い女かと思ったけど、さすがにカチンときたようだ。
「小鳥遊にも非はあると思うけど、言い過ぎじゃないの? 何様?」
それに対し、私もアクセル全開で挑む。
「親友の幸せを邪魔する奴は、全員排除したい女だよ。悪いか? 結婚秒読みの二人の間に割り込もうとして、仕事で脚を引っ張ろうとしたり、陰口叩いたり嫌みを言ったり、やってる事がガキのまんまなんだよ。あんたら全員、あと一つミスを冒したら、クビか島流しが確定してるんだからね。あんた達のスペックじゃ、篠宮兄弟に見向きもされない。早く結婚したいんなら、自分の身の程を弁えたら? 役員の秘書をしているからって、自分まで偉くなったと勘違いすんなよ。私も含め、全員ただの社員なんだよ。会社で問題行動を起こせば処分されるって、色恋でスカスカになった頭に叩き込んどけ」
私は一気にまくし立てると、小鳥遊さんに念を押した。
「盗聴器女、もう二度と朱里の前に姿を現すなよ」
言ったあと、腕時計で時間を確認し、ヒスッた女たちが騒ぐ前にサッとお手洗いを出た。
**
トイレに女性が数人入ってきて、彼女たちは私と泣いている小鳥遊さんを見て、目を丸くする。
「小鳥遊、どうしたの?」
「鏑木先輩……っ」
その会話、名前だけですぐ状況を理解した。
「この人、他部署の人なんですけど、急に言いがかりをつけてきて……っ、酷いんです!」
一瞬同情したけど、やっぱり「こいつ駄目だ」と感じた。
失恋してそれで諦めるなら、これ以上言及する必要はないと思った。
でも小鳥遊さんの根性は変わっていない。
現れた仲間を盾にして「泣かされた私、可哀想」ムーブをするなら、これ以上同情する必要はないと判断した。
〝先輩〟として頼られた鏑木が、私を睨んで何か言う前に先制攻撃をした。
「私はただ、小鳥遊さんが私の友達に盗聴器を仕込んだから、事情を聞いていただけです」
臆さずに言うと、逆に鏑木たちはギョッとした表情で小鳥遊さんを見た。
「ひ……っ、酷い! 誹謗中傷ですよ!」
真っ赤な顔をして怒鳴った小鳥遊さんを、私は半眼になって睨む。
「先に犯罪まがいの事をした人は誰? 『友達になりたい』って嘘をついてまで近づいて、盗聴器をしかけて、憧れの副社長の私生活を覗きたかったんでしょ。困っていた時に傘を買ってもらって恋に落ちて、一途に想っていたんだもんね? もしかして、秘書課の皆さんも、小鳥遊さんの恋を応援してました?」
我ながら意地の悪い事を言うと、鏑木が目を剥いて小鳥遊さんを睨んだ。
はいはい、鏑木も篠宮さん狙いね。
しかし今の私、余裕でヴィラン役をやれそうだ。勿論、プリンセスは朱里で。
そしてヴィランとプリンセスの二人で、幸せに暮らしていくのだ。
プリンス二人が追いかけてきそうだけど……。
そんな事を考えている間、明らかに小鳥遊さんと鏑木たちの間に、ギスッとした空気が生まれたのを感じた。よし。
小鳥遊さんは鏑木たちが篠宮兄弟推ししているのを、興味のないフリをして見守り、表向き〝外野〟として応援していたんだろう。
でも本心では「本当に副社長を理解できるのは、私だけ。あの人たちとは違う」と思っていたに違いない。
よし、篠宮狙いがバレて、内輪揉めしろ。
私は〝知らないフリ〟をして〝先輩〟に頼んだ。
「鏑木さんも秘書課の方ですか? 小鳥遊さんが誰を好きでも自由ですが、行き過ぎた真似をすると、秘書課全体に影響が及ぶと思いますから、注意したほうがいいですよ。確かに社長も副社長も若くて素敵な人ですから、浮き足だってしまう気持ちは分かります。でも仕事に私情を挟むような学生の延長みたいな人、社会人とは言えませんから」
「……そ、そうだね」
鏑木は心当たりがありすぎるのか、引きつった顔で頷く。
「芸能人みたいな方たちだから、ミーハーな気持ちを持つのは分かりますけど、社長たちはただの一般人です。想えば笑いかけてくれる、なんてファンサービスしません。副社長が小鳥遊さんにビニ傘を買ったのも、大雨の中帰るのを気の毒に思ったから、という親切心に過ぎません。なのに『脈アリ? 上手くいくかも』なんて、あまりにイタすぎます。ファンの域なら、まだ夢女で済ませられたかもしれませんが、行動に出た時点でストーカーですからね」
小鳥遊さんはみんなの前で侮辱されたと思ったのか、赤面して梅干しみたいな顔色になっている。
「そもそも、『自分なら上村さんより副社長を理解できる』なんて、思い上がりもいいところです。その上、近づいて盗聴しようとしたり、別れさせようとするヤバイ女、ハイスペック男が相手にする訳がありませんしね? そのうち、秘書課にいるのいい事に、ミスを誘発するように、仕事の邪魔をしたりして」
あくまで小鳥遊さんに対して言ったつもりだけど、遠回しに鏑木たちの事も指摘する。
恐竜みたいに鈍い女かと思ったけど、さすがにカチンときたようだ。
「小鳥遊にも非はあると思うけど、言い過ぎじゃないの? 何様?」
それに対し、私もアクセル全開で挑む。
「親友の幸せを邪魔する奴は、全員排除したい女だよ。悪いか? 結婚秒読みの二人の間に割り込もうとして、仕事で脚を引っ張ろうとしたり、陰口叩いたり嫌みを言ったり、やってる事がガキのまんまなんだよ。あんたら全員、あと一つミスを冒したら、クビか島流しが確定してるんだからね。あんた達のスペックじゃ、篠宮兄弟に見向きもされない。早く結婚したいんなら、自分の身の程を弁えたら? 役員の秘書をしているからって、自分まで偉くなったと勘違いすんなよ。私も含め、全員ただの社員なんだよ。会社で問題行動を起こせば処分されるって、色恋でスカスカになった頭に叩き込んどけ」
私は一気にまくし立てると、小鳥遊さんに念を押した。
「盗聴器女、もう二度と朱里の前に姿を現すなよ」
言ったあと、腕時計で時間を確認し、ヒスッた女たちが騒ぐ前にサッとお手洗いを出た。
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