部長と私の秘め事
『他部署の人と揉めてしまった事は謝罪します。ですが親友、そして副社長の私生活が盗聴されていると知って、放置しておけません。誰が誰を好きでも、どうでもいいです。ですが、プライバシーの侵害は別です』

 篠宮さんは静かに頷く。

『真正面から〝あなたのやっている事は常識外れだよ〟と言っても、小鳥遊さんは大人しくて物分かりのいいキャラを貫いているので、はぐらかされるだろうと思い、強硬手段に出ました。……途中で鏑木さんたちが来たのは想定外でしたが、上村さんが秘書課に入ったというのに、彼女だけ歓迎会が行われなかったなんて、子供みたいないじめが横行し、上も見て見ぬ振りをしたというのも、納得できませんでした』

 言いながら大迫課長を見つめると、さり気なく視線を逸らされた。

 どうやら後ろめたく思う気持ちはあるみたいだ。

『大声を上げ、乱暴な言葉を使ったのは良くなかったと反省しています。ですが私は単に〝気に食わない〟という感情で動いたのではなく、確固たる証拠がある上で行動しました。友達のためとはいえ、社内で騒ぎを起こした非は認めます。処罰があるなら受け入れます。ですが、上村さんや副社長の私生活を盗聴しようとした事、笹島さんの歓迎会で上村さんが侮辱的な事を言われた事に関して、大迫課長、田辺部長のご意見をお伺いしたいです』

 田辺部長は以前に三人もの島流しを経験しているからか、額に冷や汗を浮かべていた。

 大迫課長も苦虫を噛み潰したような表情で、強く私を反論できる状況にない。

『話してくれてありがとう』

 篠宮さんは一旦区切りを作り、田辺部長、大迫課長を見る。

『ここからは私のプライベートにも関わる話だが、同棲している上村さんが、秘書課の小鳥遊さんという女性から、盗聴器の入ったチャームをもらったのは事実だ。証拠の写真も撮ってある』

 そう言って篠宮さんはスマホを出し、彼らに写真を見せた。

『小鳥遊さんが〝渡していない〟と言ったとしても、同席した中村さんの証言があるし、この事実を覆すのは難しいだろう』

 篠宮さんの話を聞いても、田辺部長も大迫課長も、異論を唱える様子はなかった。

『私が上村さんを秘書とした事で、一連の出来事が起こった事も理解している。だが将来的に彼女と結婚する事を考え、前任の社長夫人のように、ある程度の役職、及び秘書業についていたほうが良いと判断して、秘書となってもらった。彼女は新しい仕事をまじめにこなし、秘書としてベテランの笹島さんからも評価を得ている。……だから、身内びいきをなしにしても、上村さんが秘書になった事に問題があるとは思えない』

 それに対しても、二人は何も言わなかった。

『小鳥遊さんが誰を好きになっても、誰を嫌いになっても、会社が個人の感情をコントロールする訳にいかない。その点は自由だ。……だが、秘書課の社員が副社長秘書、私に対して盗聴行為をした事は別だ。私と上村さんのプライベートな会話を聞かれるだけに留まらず、役員との会話、会議前後のやり取り、取引先とどのような話をしたか、または人事、経営上の機密も第三者に知られる可能性があった』

 そう言われ、あからさまに二人の顔色が変わった。

 そして私自身も、盗聴器の問題がここまで大きくなると思っておらず、緊張して膝の上でギュッと拳を握った。

『ここから先は単なる〝もしも〟の話だが、秘書課の誰かの命令で小鳥遊さんが副社長秘書に対して、盗聴行為を働かされたとも言える』

『そ……っ、そんな事は決して……っ!』

 大迫課長は顔色を失い、冷や汗を流して首を横に振る。

『君がそうさせたとは言っていない。単に可能性の話だ。……私はこの件を、上村さんが婚約者だからという私的な問題より、会社内での機密漏洩未遂として重く見る必要があると感じている』

 田辺部長が、食いしばった歯の間から、『ふぅぅうー…………』と引きつった吐息を漏らす。

『自宅で盗聴器を発見した際、私は〝犯人〟に対して〝二度はない〟と警告した。仮にも我が社の社員だから、上村さん同様に会社として守る必要があると思っていたからだ。……だがそれにも関わらず、悪びれない態度をとっていたなら問題がある。……今後、別途小鳥遊さんにも個別ヒアリングをして、二度としないと約束するなら、警察沙汰にはしない。しかし秘書としての信頼を失った彼女を、今後も秘書課で働かせる事はできない。……そちらについては、人事も交えて相談したいと思っている』

『……はい』

 田辺部長も大迫課長も、何も言えず頷くしかできずにいた。

『そして鏑木さん達に関する出来事だが、歓迎会での上村さんへの暴言については、ここにいる笹島さん、社長秘書の諸岡さん、丸木さんからも証言を得ている。加えて過去に彼女たちは、元副社長秘書だった丸木さんに対しても、業務上のミスを誘発する行動をとった記録がある。上村さんも秘書になったあと同様のミスをし、元を辿れば秘書課から意図的に情報伝達をされなかった裏がとれている。……鏑木さん達について、このような行いは二度目になる』

 冷酷に告げた篠宮さんの声を聞き、二人とも震え上がっている。

『今回、秘書課からは〝中村さんから暴言を受けた〟との報告があったが、録音された音声を聞けば、大きな認識のズレがある。……確かに中村さんが大声を上げ、恫喝したように感じたのは否めない。しかし問題はなぜ中村さんがそのような行動をとったか、だ。今日はまず最初に中村さんに来てもらったが、秘書課全員、一人ずつヒアリングする予定だ』

 そこまで言って、篠宮さんは私を見つめた。

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