部長と私の秘め事
「好きだなぁ……。可愛い。どうしよう。可愛い」

 心底……という感じで、すっかり語彙力を失って呟く涼さんを、私は不思議な心地で見上げる。

 こんな、社会的地位のある、みんなの憧れる御曹司が、私のお世辞にも可愛いと言いがたい愛情表現でメロメロになっている。

 喜ぶべきところなんだろうけど、嬉しいを通り越して「この人大丈夫だろうか?」と心配になってしまった。

 自分を卑下するつもりはないけれど、彼みたいなハイスペックから見れば、私は高級食材じゃなくて珍味みたいな物だろう。

 だから珍しさも相まって、振り回されていると思うんだけれど。

「涼さんはちょっと、単純すぎますよ」

「そうかな? 恵ちゃんの可愛さが天元突破してるんだよ」

「相変わらず凄い表現使いますね」

「もう、恵ちゃんが『光あれ』って言ったら天地創造できるね」

「はいはい」

 呆れた私は、涼さんの背中をトントン叩く。

「俺はね、本当に恵ちゃんの事を『可愛いな』って思ってるんだよ。この気持ちの千分の一でも伝わればいいんだけど」

「……一応、受け止めてはいるつもりですけど」

「恵ちゃんの事を全力で甘やかして、可愛がって、ふくふくになった幸せ猫になってほしいんだ」

「今でも十分幸せですよ?」

「もっと! もっと幸せになってほしい」

 子供みたいな事を言う彼を見て、私はクスッと苦笑いする。

 家族や朱里以外に、ここまで無条件に私の幸せを願ってくれる人はいないだろう。

 文字通り、宝くじの一等以上の幸運を引き当てたのだから、このご縁を大切にしていかないと。

「ご家族にお会いする時、レストランとか行きますか? 服装とかどうしましょう?」

 話を元に戻すと、彼はパッと身を起こして考え始めた。

「うちが所有しているホテルのスイートでなら、ゆっくり過ごしつつ、キッチンでシェフが作ってくれたできたての料理を食べられる。だから服装もそんなに気にしなくていいよ」

「気にします!」

 予想していた街中のレストランではなく、所有しているホテルのスイートなんて単語が出てきて、私のほうこそ頭の中がとっ散らかっている。

 三日月グループが所有しているホテルなら高級ホテルにきまっているし、ホテルの部屋でシェフに料理を作ってもらう(なんじゃそりゃ)のに相応しい服装?

 一瞬、頭の中にライトノベルのお嬢様みたいなドレスが浮かんだけれど、いやいやいや。かといって着物なんて成人式で着て以来だし、汚したら怖い。

「…………着る物がありません…………。布の服でいいですか…………」

 絶望して呟くと、涼さんはフハッと溜め息をつくように笑い、私の頭を撫でてくる。

「布じゃない服だったら、凄く前衛的になるね? あっ、貝殻ビキニ?」

 私が物凄い顔をして彼を睨むと、「ごめんって」と笑われた。

「あとはギンギラギンの、近未来な衣装とか」

「……それでご両親にお会いしていいなら。なんなら蛍光カラーのコスメ使いますよ」

 ブスッとして言うと、涼さんはクスクス笑う。

「真剣に悩んでくれているのはありがたいけど、本当にうちの家族は何を着てもうるさい事は言わないよ。……ワンピースとか、ブラウスと合わせたパンツスタイルとかなら無難かもしれないけど」

「はぁ……」

 ようやく答えらしい答えをもらい、私はぼんやりとクローゼットにある、普段着られないお高い洋服たちを思い出す。

 あまりにも意識していないので、どんな服があるのかすら覚えていない。

「……やっぱり女性らしいのがいいんでしょうか。ピンクとか可愛い色とかの……」

 苦手な系統だけれど、涼さんのご家族が女性らしさを求めているなら、お会いする時だけそういうのを着るのもやぶさかではない。

 お望みなら、短い髪だけどハーフアップにでも、まとめ髪にでもしよう。

「いや、それは必要ないよ。俺も協力するから、自分に似合う物を着よう。うちの女性陣、そういう事に敏感でね……。場に合わせて似合わない、着たくもない服を着るぐらいなら、場違いであっても、周りをあっと言わせるほど似合っている服を着る女性が好きなタイプなんだよ」

「そうなんですか」

 とりあえず、ピンクのフリフリを着なくて済むと知って安心した。

 ……というか、今どき結婚相手のご家族に会いに行くのに、ピンクのフリフリを着ていったら、頭がおかしいと思われるだろう。

 いい加減、私の発想も極端すぎる。

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