部長と私の秘め事

親友と会う前に

 私――、上村朱里は食後にゴロゴロしつつ電子漫画を読んでいたけれど、恵からメッセージが入ったのを見て「あ」と声を漏らした。

 今日帰ったあと、尊さんからは何も言われなかった。

 でも社内メールでエミリさんから【秘書課がゴタゴタしてるみたい】と連絡があったのだ。

 彼女も詳細は知らないみたいだけど、どうやら小鳥遊さんが呼び出しをくらったとか何とか……。

 それで思い出すのは、恵が彼女を『好きじゃない』と言っていた事、小鳥遊さんからもらったチャームを、尊さんに一時預けた事。

 尊さんからチャームを返してもらった時、私は何も言わなかったけれど、触った感じが違っているのに気づいていた。

 前は綿がギュウギュウに詰め込まれていたけれど、尊さんから戻ってきた時は、ぬいぐるみらしいフワフワ感があった。

『中から何か出したんだな』と理解したけれど、本当の事を知るのが怖くて聞けずにいた。

 自分でも〝何があったか〟は分かっているつもりでいて、信じたくなくて意識を向けないようにしていた。

〝それ〟に直面したら、いっそう人間不信に磨きがかかってしまいそうで、傷付くのが怖くて無意識に考えるのを止めていたのだ。

 でも尊さんと話して、何を大切にすべきかはちゃんと理解したつもりだ。

 メッセージアプリを開くと、恵から【こんばんは】といつものスタンプが送られていた。

【金曜の夜空いてる? 色々話したいと思って】

 いつも恵は最低限のスタンプは使うけれど、絵文字はあまり使わない。

 でも今回のメッセージには、私の機嫌を窺うようにニコニコマークの絵文字がつけられていた。

(こんなに気を遣わなくてもいいのに)

 私は若干の寂しさを感じつつ、いつものように返事をした。

【どこに食べに行く!? 居酒屋行こうか!】

【じゃあ、東京駅近くの居酒屋にしよ。あとでURL共有する】

【OK!】

 私はそのあと【腹が鳴るぜ!】というお気に入りのスタンプを送る。

 それに対して恵はいつものように、キャラクターが泣き笑いしているスタンプを送ってきた。

 秘書課でのゴタゴタがあったと知らされ、そして恵から会いたいという申し出があった。

(多分、私が気づいていない……、ううん、気づこうとしなかった裏であった事を教えてくれるんだろうな)

 尊さんが言っていたように、彼や恵は、私のためにならない行動は絶対にしない。

 だから少ないメッセージの情報から分かる通り、恵が何かしら私に対して申し訳ないと思っていても、「無問題(モーマンタイ)!」の一言で終わらせるつもりだ。

「尊さん、金曜日、恵と居酒屋行って来ますね」

「おう」

 返事をした彼は、少し考えてから気まずそうに言った。

「あー……、秘書課とかチャームとかの事か?」

「そうですね。恵はまだ何も言ってませんが、エミリさんからも少し聞きましたし、その事だと思います」

 微笑んで頷くと、彼は溜め息をつき、謝ってきた。

「俺から一言いえば良かったな。すまん」

「ううん、いいんです。多分、どう足掻いてもこうなったでしょうし、私の人を見る目がなかったのが原因と思いますし」

「いや、それは違う」

 尊さんは否定し、言葉を選びつつ言う。

「今回の事は完全に俺が原因で、朱里も中村さんもとばっちりを食らったんだ」

 そう聞いただけで、小鳥遊さんが尊さんを狙っていただろう事を理解した。

「でも尊さん、仮に私と付き合う前だとしても、女性に思わせぶりな態度をとらないでしょう?」

「しない」

 キッパリ言った彼の返事を聞き、私はにっこり笑う。

「ならいいんです。もしも尊さんが誰かに気を持たせる事をして、そのゴタゴタが今にきているなら、『ちょっと~、男子ぃ~』って言いたくなりますけど、他意はなかった。好意であれ悪意であれ、誰だって何気なく行動する中で、思いも寄らない反応をされる時ってあります。……だから、無問題(モーマンタイ)」

 私は両腕で頭上に丸を作り、ニッと笑う。

「でも……」

 尊さんが何か言いかけた時、私は当たり屋のように騒ぎ始めた。
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