部長と私の秘め事
続・ヒアリング
「あーっ! こ、これは……っ、『無問題』? 中華……、中華の予感がするぞ! 尊さんが高級すぎない美味しい中華屋さんにつれて行ってくれて、アラカルトで色んな物を思う存分食べさせてくれる予感がするぞ!」
両手で胃の辺りを押さえて脚をジタバタさせると、尊さんはプハッと噴き出して笑い始めた。
「何だよそれ」
「発作です、発作。……こ、これは……っ、中華を食べないと……っ」
ソファに寝転がってジタバタしていると、一人掛けソファに座っていた尊さんが「どれ」と言って歩み寄り、私の頬に手を添えたかと思うとキスをしてきた。
びっくりして動きを止めた私は、悪い顔で微笑む尊さんを見て、ボソリと呟く。
「……ちゅ、ちゅう……、か?」
「そこまで考えてなかった」
途端に尊さんは弾かれたように笑い、ツボに入ったのかヒイヒイ悶える。
親父ギャグを言ってしまった私はカーッと赤面し、背中を丸めて笑っている尊さんをポコポコ叩く。
「キスしたの、尊さんじゃないですか!」
「いや、可愛かったから、普通キスするだろ」
「尊さんの『普通』が分かりません! 自分の常識を相手に当てはめたら、だーめなんだ、だめなんだー、せーんせーに言ってやろー!」
「おま……っ」
子供みたいに歌ったら、尊さんは余計にツボに入り、ソファの座面に顔を埋めて笑い続けた。
私はしばし、笑い続ける尊さんの背中を見ていたけれど、「むふー」と笑うと彼を後ろから抱き締めた。
そのうち笑いの衝動が収まった尊さんも、お腹に回った私の手をポンポン叩く。
そして私の肩を抱くと額にキスをし、囁いた。
「いつも朱里の明るさに救われてる」
「下心ありきですからね」
ふふん、と鼻を鳴らすと、チュッと音を立ててキスされた。
「可愛さ余って、愛しさ百倍の刑」
「ひひひ、何ですかそれ」
こうやってイチャイチャしていると、私こそ尊さんの包み込むような愛情に救われる。
(私は大丈夫)
時に思いも寄らない事が起こるけれど、側に尊さんや恵がいるなら大丈夫だ。
涼さんも、エミリさんも春日さんも頼りになる。
いざという時に相談するのが母ではなくなったのは、私が大人になってきた証拠なんだろう。
もともと母には『心配させたらいけない』と思って、本当の悩みを言えずにいた。
でも今は、私以上に私の事を知っていると言っても過言ではない尊さんがいるし、私の身に起こった事を自分の事のように喜び、怒り、悲しんでくれる親友もいる。
(お父さん、私、もう一人じゃないよ)
私は心の中で亡き父に伝え、微笑んだ。
**
俺――、篠宮尊は、引き続き秘書課の社員にヒアリングを行った。
昨日は中村さん、引き続き今日呼び出したのは小鳥遊さんだ。
彼女は強張った顔で会議室に入り、「失礼します」とお辞儀をして椅子に座る。
小鳥遊さんは最初にチラッと俺を見たあと、俯いてテーブルの上をジッと見ていた。
「小鳥遊さん、これは上村さんにプレゼントした物で間違いないか?」
俺は朱里から借りたチャームをテーブルの上に載せる。
「……知りません」
それを見た瞬間、彼女はギクッとし、視線を泳がせた。
「だが中村さんは、君がこれを彼女に渡したと証言している。当時、社員食堂のテーブルの近くに誰がいたかはまだ把握していないが、会社全体に呼びかけて情報を求めれば、誰かが教えてくれるだろう。……なるべく秘書課内の事にしたいと思っているんだが、それでも『知らない』と?」
彼女は沈黙を返す。
少ししてから俺は溜め息をつき、質問を変えた。
「中村さんとトイレで話した事は覚えているな?」
「……すれ違ったかもしれませんが、分かりません」
「笹島さん」
秘書に視線を送ると、彼は中村さんが録音した音声を流し始めた。
音声が流れ始めた瞬間、彼女はクシャリと表情を歪めて訴える。
「こんなものを聞かせるなんて、酷いじゃないですか! 精神的苦痛で訴えます!」
涙混じりに言う彼女に、俺は淡々と尋ねる。
「君がチャームに盗聴器を仕込んだ、で間違いないか?」
それを聞き、小鳥遊さんは瞠目して傷付いた顔をする。
絶望した彼女の様子を見て何も思わない訳ではないが、今は個人として対処するより、副社長としての判断を下す時だ。
両手で胃の辺りを押さえて脚をジタバタさせると、尊さんはプハッと噴き出して笑い始めた。
「何だよそれ」
「発作です、発作。……こ、これは……っ、中華を食べないと……っ」
ソファに寝転がってジタバタしていると、一人掛けソファに座っていた尊さんが「どれ」と言って歩み寄り、私の頬に手を添えたかと思うとキスをしてきた。
びっくりして動きを止めた私は、悪い顔で微笑む尊さんを見て、ボソリと呟く。
「……ちゅ、ちゅう……、か?」
「そこまで考えてなかった」
途端に尊さんは弾かれたように笑い、ツボに入ったのかヒイヒイ悶える。
親父ギャグを言ってしまった私はカーッと赤面し、背中を丸めて笑っている尊さんをポコポコ叩く。
「キスしたの、尊さんじゃないですか!」
「いや、可愛かったから、普通キスするだろ」
「尊さんの『普通』が分かりません! 自分の常識を相手に当てはめたら、だーめなんだ、だめなんだー、せーんせーに言ってやろー!」
「おま……っ」
子供みたいに歌ったら、尊さんは余計にツボに入り、ソファの座面に顔を埋めて笑い続けた。
私はしばし、笑い続ける尊さんの背中を見ていたけれど、「むふー」と笑うと彼を後ろから抱き締めた。
そのうち笑いの衝動が収まった尊さんも、お腹に回った私の手をポンポン叩く。
そして私の肩を抱くと額にキスをし、囁いた。
「いつも朱里の明るさに救われてる」
「下心ありきですからね」
ふふん、と鼻を鳴らすと、チュッと音を立ててキスされた。
「可愛さ余って、愛しさ百倍の刑」
「ひひひ、何ですかそれ」
こうやってイチャイチャしていると、私こそ尊さんの包み込むような愛情に救われる。
(私は大丈夫)
時に思いも寄らない事が起こるけれど、側に尊さんや恵がいるなら大丈夫だ。
涼さんも、エミリさんも春日さんも頼りになる。
いざという時に相談するのが母ではなくなったのは、私が大人になってきた証拠なんだろう。
もともと母には『心配させたらいけない』と思って、本当の悩みを言えずにいた。
でも今は、私以上に私の事を知っていると言っても過言ではない尊さんがいるし、私の身に起こった事を自分の事のように喜び、怒り、悲しんでくれる親友もいる。
(お父さん、私、もう一人じゃないよ)
私は心の中で亡き父に伝え、微笑んだ。
**
俺――、篠宮尊は、引き続き秘書課の社員にヒアリングを行った。
昨日は中村さん、引き続き今日呼び出したのは小鳥遊さんだ。
彼女は強張った顔で会議室に入り、「失礼します」とお辞儀をして椅子に座る。
小鳥遊さんは最初にチラッと俺を見たあと、俯いてテーブルの上をジッと見ていた。
「小鳥遊さん、これは上村さんにプレゼントした物で間違いないか?」
俺は朱里から借りたチャームをテーブルの上に載せる。
「……知りません」
それを見た瞬間、彼女はギクッとし、視線を泳がせた。
「だが中村さんは、君がこれを彼女に渡したと証言している。当時、社員食堂のテーブルの近くに誰がいたかはまだ把握していないが、会社全体に呼びかけて情報を求めれば、誰かが教えてくれるだろう。……なるべく秘書課内の事にしたいと思っているんだが、それでも『知らない』と?」
彼女は沈黙を返す。
少ししてから俺は溜め息をつき、質問を変えた。
「中村さんとトイレで話した事は覚えているな?」
「……すれ違ったかもしれませんが、分かりません」
「笹島さん」
秘書に視線を送ると、彼は中村さんが録音した音声を流し始めた。
音声が流れ始めた瞬間、彼女はクシャリと表情を歪めて訴える。
「こんなものを聞かせるなんて、酷いじゃないですか! 精神的苦痛で訴えます!」
涙混じりに言う彼女に、俺は淡々と尋ねる。
「君がチャームに盗聴器を仕込んだ、で間違いないか?」
それを聞き、小鳥遊さんは瞠目して傷付いた顔をする。
絶望した彼女の様子を見て何も思わない訳ではないが、今は個人として対処するより、副社長としての判断を下す時だ。