部長と私の秘め事
「私たち秘書は、役員にスムーズに動いていただくための補佐役です。秘書課の風通しが良くなれば、おのずと役員の皆様も余計な事に煩わされる事なく、業務に身を入れていただける事ができるかと思います。……私からは以上です」
住吉課長補佐はペコリと頭を下げる。
「ありがとうございます」
きっと彼女としても、ずっと不満に思っていた事をぶちまけるなら今だと思ったのだろう。
〝何か〟がなければ上司の無能ぶりを訴える事ができず、自分も上司と部下に板挟みになったまま、耐え続けなければならなかった。
今回の件を絶好の機会とし、諸悪の根源を綺麗さっぱり絶とうと思っているのだろう。
大迫課長、田辺部長共に苦い顔をしていたが、俺は住吉課長補佐の味方をするつもりでいる。
彼女の言う事はすべて正論で、両者にとってもぐうの音も出ない事実だからだ。
そのあともヒアリングは続き、先頭を切って朱里、エミリをターゲットにした鏑木さんは、予想通りの反応だった。
「私は特に悪い事をしたと思っていません。連絡を怠ったのは事実ですが、そもそも副社長たちだって公私混同されていたじゃないですか。職場に混乱をもたらす人を秘書課に入れ、他の社員に『通常通りに接しろ』と言っても無理があります」
「……ではそもそも論だが、篠宮ホールディングスの家族経営に難があると? 現社長は確かに若くて頼りないと思うかもしれないが、株主総会でも了承を得た上で就任し、前社長がもたらしたマイナス印象を回復させようと励んでいる。私もより良い会社になるよう尽力しているが、それを否定すると?」
「そ、そんな事は言っていません」
「だが君らは私たちが選んだ秘書に文句を言っている。……それに課内からの報告で、君たちは『丸木さんが邪魔、上村さんが邪魔。自分が社長、もしくは副社長秘書になったら、もっと効率よく働けるし公私混同しない』と言いながらも、私や社長と付き合った時の妄想をし、仲間内で盛り上がっている。それについて、自分に非はないと?」
鏑木さんはカーッと赤面し、ヒステリックに言う。
「うぬぼれるの、止めてください! セクハラですよ!?」
「では君も、こういう事を言うのは止めてくれないかな? 私や社長に対するセクハラに当たるから」
俺が笹島さんに合図すると、以前にエミリが録音した音声が流れた。
《っていうか、ぶっちゃけ風磨と尊、どっち派? はい、萌花(もえか)から》
《私は風磨かな~? 物腰柔らかで正統派王子様じゃん。明日香(あすか)さんは?》
《あはっ、いいとこ取りで二人とも? 丸木なんてブスだし、上村は胸がでかいだけだし、二人とも枕に決まってるでしょ? 取り柄なんて穴しかなさそうだし。それにあいつら程度の枕テクなら、私のほうが上手だっつの。尊の手ってめっちゃエロいし、指舐めでイいかせてやるっての》
《あはは! 舐めたいの指だけじゃないでしょ?》
《バレた? めっちゃえげつない音立てて、精液全部搾り取ってやるわ》
《口で受精できないでしょ。未来の御曹司の種は下で受け取らないと!》
《それもそうだね。騎乗位でガンガンだわ》
《あっははははは!》
おぞましい音声を聞いて、鏑木は顔色を失う。
明日香というのは鏑木さんの事で間違いない。萌花というのは常務秘書の大槻(おおつき)萌花。そしてもう一人は恐らく、同じく常務秘書の三角恵那(みすみえな)。
笹島さんが録音した音声を止めたあと、俺は彼女を見つめて静かに尋ねる。
「これは私へのセクハラに当たらないだろうか? この音声を聞いた時、非常に不愉快な気分になった。それだけではなく、丸木さん、上村さんの事も侮辱しているな?」
「だ……っ、誰がこんな……っ」
「誰が録音したかは重要じゃない。問題は君たちが上司や同僚に向かって、このような発言をしたという事だ」
鏑木さんは唇を震わせ、顔を青ざめさせている。
「これ以上言う事がないなら、相応の処分を取らせてもらう。退室してどうぞ」
彼女は強張った表情のままぎこちなく立ちあがり、ノロノロと会議室を出て行った。
そのあともエミリ、諸岡さんも含めた秘書課全員のヒアリングが行われた。
この騒ぎに関係のない男性秘書などからは、鏑木さんたちの醸し出すギスギスした空気、マウントの取り合いに辟易としていて、仕事に身が入らないという苦情も出た。
笹島さんは『私は新参者ですから、特に言う事はありませんが、秘書課のほうから意図的に連絡がこずに上村さんが困っていたのは目の当たりにしていました』と告げ、その上で『以前の職場でも似たような事がありましたし、どこに行っても同じですね……』と遠い目をしていた。
その後、人事部と法務部で録音音声の内容、業務連絡の履歴、過去の嫌がらせの相談記録を確認し、必要に応じて再度ヒアリングが行われた。
勿論、小鳥遊さんが盗聴したであろうデータについては、隠蔽が行われないよう、即時に担当の者が彼女の家まで行って押収した。
一週間ほど経つ頃には田辺総務部長、大迫秘書課課長に話を聞き、二週間後ぐらいには懲戒委員会が開かれ、人事部長、法務部長、コンプライアンス室長が処分に値する事実を示し、該当者には弁明の機会を与えた上で処分案を纏める事になるだろう。
その後五日以内ぐらいには、本人に処分通知書が交付されると見ている。
その前に、小鳥遊さんには機密情報へのアクセス停止、一時的な業務変更が決定された。
**
住吉課長補佐はペコリと頭を下げる。
「ありがとうございます」
きっと彼女としても、ずっと不満に思っていた事をぶちまけるなら今だと思ったのだろう。
〝何か〟がなければ上司の無能ぶりを訴える事ができず、自分も上司と部下に板挟みになったまま、耐え続けなければならなかった。
今回の件を絶好の機会とし、諸悪の根源を綺麗さっぱり絶とうと思っているのだろう。
大迫課長、田辺部長共に苦い顔をしていたが、俺は住吉課長補佐の味方をするつもりでいる。
彼女の言う事はすべて正論で、両者にとってもぐうの音も出ない事実だからだ。
そのあともヒアリングは続き、先頭を切って朱里、エミリをターゲットにした鏑木さんは、予想通りの反応だった。
「私は特に悪い事をしたと思っていません。連絡を怠ったのは事実ですが、そもそも副社長たちだって公私混同されていたじゃないですか。職場に混乱をもたらす人を秘書課に入れ、他の社員に『通常通りに接しろ』と言っても無理があります」
「……ではそもそも論だが、篠宮ホールディングスの家族経営に難があると? 現社長は確かに若くて頼りないと思うかもしれないが、株主総会でも了承を得た上で就任し、前社長がもたらしたマイナス印象を回復させようと励んでいる。私もより良い会社になるよう尽力しているが、それを否定すると?」
「そ、そんな事は言っていません」
「だが君らは私たちが選んだ秘書に文句を言っている。……それに課内からの報告で、君たちは『丸木さんが邪魔、上村さんが邪魔。自分が社長、もしくは副社長秘書になったら、もっと効率よく働けるし公私混同しない』と言いながらも、私や社長と付き合った時の妄想をし、仲間内で盛り上がっている。それについて、自分に非はないと?」
鏑木さんはカーッと赤面し、ヒステリックに言う。
「うぬぼれるの、止めてください! セクハラですよ!?」
「では君も、こういう事を言うのは止めてくれないかな? 私や社長に対するセクハラに当たるから」
俺が笹島さんに合図すると、以前にエミリが録音した音声が流れた。
《っていうか、ぶっちゃけ風磨と尊、どっち派? はい、萌花(もえか)から》
《私は風磨かな~? 物腰柔らかで正統派王子様じゃん。明日香(あすか)さんは?》
《あはっ、いいとこ取りで二人とも? 丸木なんてブスだし、上村は胸がでかいだけだし、二人とも枕に決まってるでしょ? 取り柄なんて穴しかなさそうだし。それにあいつら程度の枕テクなら、私のほうが上手だっつの。尊の手ってめっちゃエロいし、指舐めでイいかせてやるっての》
《あはは! 舐めたいの指だけじゃないでしょ?》
《バレた? めっちゃえげつない音立てて、精液全部搾り取ってやるわ》
《口で受精できないでしょ。未来の御曹司の種は下で受け取らないと!》
《それもそうだね。騎乗位でガンガンだわ》
《あっははははは!》
おぞましい音声を聞いて、鏑木は顔色を失う。
明日香というのは鏑木さんの事で間違いない。萌花というのは常務秘書の大槻(おおつき)萌花。そしてもう一人は恐らく、同じく常務秘書の三角恵那(みすみえな)。
笹島さんが録音した音声を止めたあと、俺は彼女を見つめて静かに尋ねる。
「これは私へのセクハラに当たらないだろうか? この音声を聞いた時、非常に不愉快な気分になった。それだけではなく、丸木さん、上村さんの事も侮辱しているな?」
「だ……っ、誰がこんな……っ」
「誰が録音したかは重要じゃない。問題は君たちが上司や同僚に向かって、このような発言をしたという事だ」
鏑木さんは唇を震わせ、顔を青ざめさせている。
「これ以上言う事がないなら、相応の処分を取らせてもらう。退室してどうぞ」
彼女は強張った表情のままぎこちなく立ちあがり、ノロノロと会議室を出て行った。
そのあともエミリ、諸岡さんも含めた秘書課全員のヒアリングが行われた。
この騒ぎに関係のない男性秘書などからは、鏑木さんたちの醸し出すギスギスした空気、マウントの取り合いに辟易としていて、仕事に身が入らないという苦情も出た。
笹島さんは『私は新参者ですから、特に言う事はありませんが、秘書課のほうから意図的に連絡がこずに上村さんが困っていたのは目の当たりにしていました』と告げ、その上で『以前の職場でも似たような事がありましたし、どこに行っても同じですね……』と遠い目をしていた。
その後、人事部と法務部で録音音声の内容、業務連絡の履歴、過去の嫌がらせの相談記録を確認し、必要に応じて再度ヒアリングが行われた。
勿論、小鳥遊さんが盗聴したであろうデータについては、隠蔽が行われないよう、即時に担当の者が彼女の家まで行って押収した。
一週間ほど経つ頃には田辺総務部長、大迫秘書課課長に話を聞き、二週間後ぐらいには懲戒委員会が開かれ、人事部長、法務部長、コンプライアンス室長が処分に値する事実を示し、該当者には弁明の機会を与えた上で処分案を纏める事になるだろう。
その後五日以内ぐらいには、本人に処分通知書が交付されると見ている。
その前に、小鳥遊さんには機密情報へのアクセス停止、一時的な業務変更が決定された。
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