部長と私の秘め事

帰宅して

「おいひ~ぃ」

 私――、上村朱里は、遅く帰ってきた尊さんのお土産のケーキを頬張り、頬に手を当てる。

 カシャッと音がしてそちらを見れば、尊さんが嬉しそうな顔をして私の顔を写真に収めていた。

「あー、盗撮だ」

「恋人の許可があるからいいんだよ」

「ふーん? じゃあ、私も恋人の許可があるので、恋人の盗撮をしますね」

 私は上品な甘さのフレジェ――苺のショートケーキのような物をモグモグしつつ、スマホを手にして尊さんを写し返す。

 口に入れば似たような物だけれど、フレジェはホイップクリームの代わりに、カスタードクリームとバターを合わせたムースリーヌを使用し、ケーキの外側に苺の断面を向ける物と決まっている。

 ケーキの上には苺のジュレを載せたり、粉砂糖を振りかけるなどが一般的だ。

 いっぽうで、皆さんお馴染みのショートケーキは、スポンジの間にスライスされた苺ショートを挟む方式で、ケーキの上部はホイップクリームでデコレーションされ、苺が飾られてある。

(みんな違ってみんないい)

 最後の一口を「あんぐ」と声を出して頬張ったあと、私は二個目のモンブランに取りかかる。

「あー、朱里を見てると和む……」

「マイナスイオン出てますかね?」

「すげぇ出てる。なんなら、朱里のいる半径五メートル、森林浴できるわ」

「いひひひ。母なる大地・朱里。立派な瀧には虹がかかり……」

「涎の瀧だろ」

「どんだけですか!」

 私はケラケラ笑って突っ込み、栗の渋皮煮を口に入れる。

「『朱里讃頌』歌わないとな」

「あえて〝大地〟じゃないんですか? 大地さんの事、讃頌したっていいじゃないですか」

「朱里を讃頌したいんだよ。母なる胃袋を讃えたいぐらいにな」

「いひひひひひ」

「小ネタだけど、あれって『土の歌』の第七楽章なんだよ」

「へー! 知らんかった! 今度、動画で聴いてみます」

 モンブランをペロリした私は、次のオペラに取りかかる。

 紅茶もなくなりそうだったので、ポットから新しいのをマグカップに注ぎ、牛乳を入れてミルクティーにした。

 その時、スマホがピコンと鳴り、私は「なになに……?」とメッセージを開く。

「あ、春日さんが月末に女子会やりましょ、ですって」

「おー、息抜きに行って来い」

「やったー! アフタヌーンティーのあと、ステーキですって! やったね!」

 手を叩いて喜ぶと、尊さんは微妙な顔をしている。

「どうしたんですか?」

「……いや、あのお嬢様、相変わらず張り合ってきてんなと思って……」

「女子に嫉妬するなんて駄目ですよ~。いくらミトコでも~」

「そのネタ出したら、本気で涼子が女子会に乗り込みそうだから、やめとけって」

「あはは! 絶対やりそう!」

 濃厚でしつこくないオペラもペロリと食べたあと、私は次のケーキを食べるかどうか、箱の中を眺める。

「涼さんって本当に、私や恵のいない所では〝凍土の帝王〟なんですか?」

「あー、まぁな。基本、中村さんがいないと、割とクールだろ」

「そうですね。最初に会った時も〝落ち着いた大人のお兄さん〟って印象でした。恵と一緒にいると、マタタビ与えられた猫みたいになってますが」

「シラフであのテンションは怖ぇよな。我が親友ながら、あんな一面があるとは思ってなくて、今でも『マジか……』ってなる」

「お酒入ったらどうなるんでしょうね?」

「いや、あんま変わんねぇな。酒には強いから酔わないんだよ。それにガバガバ飲む馬鹿は二十代前半にやったから、今は味を楽しむ目的で、美味い酒を少し飲んで満足。……ってのは俺も同じだ。……色々とな、数値が気になる年齢だからな」

「あぁ~……、のし掛かるリアル~!」

「プリン体を気にする御曹司ってやだろ」

「あははははははは! 私はプリンを気にする朱里です」

「そりゃ、ありとあらゆるプリンが気になるだろうよ」

「こう考えると、人体に関わる単語も美味しそうなの多いですよね。私、学生時代に、運動したら筋肉の間に美味しい乳酸菌がじゅわ~……と滲み出るのかと思ってました。今でも割と思ってます」

「朱里らしいな」

 そこまで話して、私は「あと一つ」と言って紅茶のムースを手にする。

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