部長と私の秘め事

親友と焼き鳥

 金曜日、業務を終えた私は笹島さんに挨拶をして、先に副社長秘書室を出た。

 今日は会食などはなく服装は割と自由めで、赤いニットアンサンブルにカーキのツルッとした生地のスカートを着た。

 エレベーターに乗って一階のロビーに着くと、ソファに座ってボーッと恵を待つ。

 やがて、柔らかいイエローのブラウスに、チャコールグレーのワイドパンツを穿いた恵が「うっす」と手を振って近づいてきた。

「おつカレーライス! なんか久し振りだね」

「おつカレイのえんがわ。マジでなんか久し振りだわ」

「よーし! 焼き鳥行こう! 焼き鳥! 何本でも食べちゃうもんね!」

「リーズナブルな店だから、財布にも優しいわ」

「……とか言っちゃって~。涼さんから黒いカードもらってない?」

 冗談を言ったけれど、恵は一瞬ギクッと体を強張らせた。

「あらら、マジですか」

「受け取っただけで、机の奥にしまってあるよ」

「それを見越して、『何かあった時のために』って現金もらってない?」

「う……」

 恵は今度こそ沈黙した。

「あはは! 私と同じだろうから『きっとこうだろうな』と思って言ってみただけ」

「朱里も?」

「うん。尊さんに今日焼き鳥行くって言ったら『たんと喰え』って、お小遣い入ったお財布渡された。『お前はよく喰うから、金額を気にしてセーブして喰うぐらいなら、気にせず喰え』って」

「さすが篠宮さん。おかんだな」

「良きおかんです」

 家を出る時、尊さんにレディースの可愛いお財布を渡され『五万あったら足りるだろ』と言われた。

 多分、いくら私でも五万円分は食べないと思うんだけど……。



**



 東京駅八重洲口から出てすぐにある居酒屋に入った私たちは、二人用の個室に入った。

「落ち着いて話せるね~。個室ラッキー!」

「んまぁ、女子には秘密があるからね」

 チャージを出されたあと、私はリンゴ酢サワー、恵はビールを頼んだ。

「美味しそう~。尊さんからお小遣いもらったから、遠慮無く食べよう」

「ついでだから、今日は篠宮さんからのお小遣いに、甘えちゃおうかな」

「うんうん。よーし! 沢山食べるぞ~!」

「私、ゆっくり考えるから、朱里は先に気になるの注文しちゃいな」

「分かった!」

 返事をした私は、タッチパネルを見て脊髄反射のようにカートに放り込んでいく。

 そんな様子を見て、恵がしみじみと言った。

「……朱里って本当に、考える胃袋みたいな存在だよね」

「おだてても何も出ないよ~」

「褒めてないって」

 私はお寿司、焼き鳥、メンチカツ、もつ煮込みに小龍包、餃子、生牡蠣、牡蠣フライ、お刺身盛り合わせ、馬刺し、馬刺しユッケ、地鶏炭焼き、ガーリック焼き、牛タンユッケに牛タンカルパッチョ、牛ハラミ、サイコロステーキ、塩タン、野菜串、揚げ出し豆腐、フライドポテト、揚げタコ、唐揚げ、チキン南蛮、枝豆、うずらの玉子、出汁巻き玉子、海ぶどう、ポテトサラダにシーザーサラダ、お茶漬け三種類、鮭といくらの土鍋炊き、海鮮丼を頼んだ。

「まずはウォーミングアップ」

「何年友達やってても、あんたが末恐ろしいよ……」

 そう言ったあと、恵は悩みながらオーダーを決めていった。

 やがて飲み物が届き、私たちは乾杯する。

「プハーッ、おいちー!」

 リンゴ酢サワーのグラスを置いた私は、ほどなくして届いた枝豆をプチプチ食べ始める。

 恵は何やら気まずそうな顔をしていたけれど、おもむろに挙手した。

「はい、中村さん」

「……えっと……、……多分、大体知ってると思うけど、小鳥遊さんの事」

「うん」

「……言ったと思うけど、私、初めて会った時から『なんかやだな』と思ってた。でも朱里は友達になろうとしてたし、『気のせいかも』と思って〝いい人〟であるように祈ってた。…………でも…………」

 恵は髪を掻き上げ、溜め息をつく。

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