部長と私の秘め事
「えっ!?」
予想外の答えが来て、私は今度こそピキーンと固まってしまった。
「お前の事、ずっと見ていて、ずっと想い続けていたって言ったら?」
目をまん丸に見開いて部長を見つめると、彼は少し色素の薄い目で私を見つめ返す。
それからクスッと笑って息を吐くと、「バーカ」と私の鼻先を指で弾いた。
「いだっ」
両手で鼻を押さえて部長を見ると、彼は立ちあがって資料を各席の前に配り始める。
それから、世間話でもするような軽さで尋ねてきた。
「今週末、飯行かないか?」
今度こそ私は途方に暮れ、ムキになっていたのも忘れて素で答える。
「……何でですか」
「こんだけ関わりができたなら、じっくり話してみてもいいかと思って」
資料を配るにも、部長は仕事がスピーディーで丁寧だ。
私ならさっさと置いて終わりにするのに、彼はフワッと資料を置いたあとの角度も微調整している。
体型に合ったスーツ姿は正直格好いいし、普通、こんな人に迫られたら一発で落ちてもおかしくない。
でも、誰もが「格好いい」と思う人だからこそ、沼ったら最後だと思い、必死に踏みとどまっている。
こんな人が私を好きな訳がない。絶対に裏がある。
女性を弄んで喜ぶ人には思えないけど、警戒しすぎるぐらいで丁度いい。
昭人の事で傷付いたばかりだからこそ、私は急接近してきた部長を好きになって堪るかと、必死に理性を総動員させていた。
ハイジュエリーを贈ってくれる彼氏がいたら最高だ。
だからこそ、「こんな人が自分を気に掛けるはずがない」と思ってしまう。
昭人にすら捨てられた私に、そんな価値はないもの。
自分がとてもネガティブになっているのは分かっている。
もしも友達がこんな事を言っていたら、「男一人で自分の価値を決めたら駄目だって」と励ましただろう。
けれど人というものは、自分が落ち込んだ時はなかなか自力で這い上がれないものだ。
どんなに素敵な人が褒めてくれても、「そんな訳ない」と思ってしまう。
「……部長なら他に誘う女性がいるでしょう」
私はテーブルに頬杖をつき、ブスッとして言う。
資料を配り終えた部長は、立ったまま私を見ていたけれど、ニヤッと笑って言った。
「銀座で高級肉をたらふく食わせてやる。勿論、酒も好きなだけ」
ぐ……。
高級肉なんて、自分ではなかなか食べられない。
スーパーのステーキだって、給料日の日にちょっと安くなった奴をたまに買う程度だ。
本当は牛肉大好きだけれど、買っていたらすぐに破産してしまうので、いつもはコスパのいい鶏肉や豚肉を料理している。
「……銀座って、食べ放題の所じゃないですし……」
私は苦し紛れに、言い訳じみた事を言う。
美味しい物は食べたいけど、お肉とお酒と言われてすぐ飛びついたら格好悪い。
「じゃあ、鉄板焼きの店に行って、そのあとバーで飲む。今度はお前が酔っぱらってもきちんと送るし、したくないなら送り狼はしない」
「安全です」アピールしているのに、やる気満々に見えるのは気のせいだろうか。
「……なんでそんなに私にこだわるんですか」
私は腕組みをし、わざとしかめっ面をして部長を睨む。
そうじゃないと、心がグラグラ揺れているのが彼に伝わってしまいそうだったからだ。
部長はゆったりと歩いて私の前までくると、テーブルに寄りかかり、変な事を言った。
「俺と条件ありで付き合ってみないか?」
「はい!?」
彼の言う事が本当に分からず、今度こそ私は素っ頓狂な声を上げた。
「あー……、どこから説明したもんかな」
部長は頭を掻き、腕を組んで斜め上を見る。
「……実は結婚を勧められている」
「良かったじゃないですか。脱独身」
私は真顔のまま拍手をする。
本当は結婚と聞いた瞬間胸がざわついたけれど、深く関わる前に諦められれば、傷付かなくて済む。
「良くない。俺はその女性と結婚するつもりはないから」
「どうしてですか? 好きな人でもいるんですか?」
尋ねられた部長は、目を逸らして小さく溜め息をついた。
……あ、話したくない感じですね。
心の中で相槌を打ちつつも、私は釈然としない想いを抱く。
(……なんかモヤモヤする。部長がどんな事情を抱えていようが、どうでもいいはずなのに)
「その辺りを話すためにも、食事をしないか?」
予想外の答えが来て、私は今度こそピキーンと固まってしまった。
「お前の事、ずっと見ていて、ずっと想い続けていたって言ったら?」
目をまん丸に見開いて部長を見つめると、彼は少し色素の薄い目で私を見つめ返す。
それからクスッと笑って息を吐くと、「バーカ」と私の鼻先を指で弾いた。
「いだっ」
両手で鼻を押さえて部長を見ると、彼は立ちあがって資料を各席の前に配り始める。
それから、世間話でもするような軽さで尋ねてきた。
「今週末、飯行かないか?」
今度こそ私は途方に暮れ、ムキになっていたのも忘れて素で答える。
「……何でですか」
「こんだけ関わりができたなら、じっくり話してみてもいいかと思って」
資料を配るにも、部長は仕事がスピーディーで丁寧だ。
私ならさっさと置いて終わりにするのに、彼はフワッと資料を置いたあとの角度も微調整している。
体型に合ったスーツ姿は正直格好いいし、普通、こんな人に迫られたら一発で落ちてもおかしくない。
でも、誰もが「格好いい」と思う人だからこそ、沼ったら最後だと思い、必死に踏みとどまっている。
こんな人が私を好きな訳がない。絶対に裏がある。
女性を弄んで喜ぶ人には思えないけど、警戒しすぎるぐらいで丁度いい。
昭人の事で傷付いたばかりだからこそ、私は急接近してきた部長を好きになって堪るかと、必死に理性を総動員させていた。
ハイジュエリーを贈ってくれる彼氏がいたら最高だ。
だからこそ、「こんな人が自分を気に掛けるはずがない」と思ってしまう。
昭人にすら捨てられた私に、そんな価値はないもの。
自分がとてもネガティブになっているのは分かっている。
もしも友達がこんな事を言っていたら、「男一人で自分の価値を決めたら駄目だって」と励ましただろう。
けれど人というものは、自分が落ち込んだ時はなかなか自力で這い上がれないものだ。
どんなに素敵な人が褒めてくれても、「そんな訳ない」と思ってしまう。
「……部長なら他に誘う女性がいるでしょう」
私はテーブルに頬杖をつき、ブスッとして言う。
資料を配り終えた部長は、立ったまま私を見ていたけれど、ニヤッと笑って言った。
「銀座で高級肉をたらふく食わせてやる。勿論、酒も好きなだけ」
ぐ……。
高級肉なんて、自分ではなかなか食べられない。
スーパーのステーキだって、給料日の日にちょっと安くなった奴をたまに買う程度だ。
本当は牛肉大好きだけれど、買っていたらすぐに破産してしまうので、いつもはコスパのいい鶏肉や豚肉を料理している。
「……銀座って、食べ放題の所じゃないですし……」
私は苦し紛れに、言い訳じみた事を言う。
美味しい物は食べたいけど、お肉とお酒と言われてすぐ飛びついたら格好悪い。
「じゃあ、鉄板焼きの店に行って、そのあとバーで飲む。今度はお前が酔っぱらってもきちんと送るし、したくないなら送り狼はしない」
「安全です」アピールしているのに、やる気満々に見えるのは気のせいだろうか。
「……なんでそんなに私にこだわるんですか」
私は腕組みをし、わざとしかめっ面をして部長を睨む。
そうじゃないと、心がグラグラ揺れているのが彼に伝わってしまいそうだったからだ。
部長はゆったりと歩いて私の前までくると、テーブルに寄りかかり、変な事を言った。
「俺と条件ありで付き合ってみないか?」
「はい!?」
彼の言う事が本当に分からず、今度こそ私は素っ頓狂な声を上げた。
「あー……、どこから説明したもんかな」
部長は頭を掻き、腕を組んで斜め上を見る。
「……実は結婚を勧められている」
「良かったじゃないですか。脱独身」
私は真顔のまま拍手をする。
本当は結婚と聞いた瞬間胸がざわついたけれど、深く関わる前に諦められれば、傷付かなくて済む。
「良くない。俺はその女性と結婚するつもりはないから」
「どうしてですか? 好きな人でもいるんですか?」
尋ねられた部長は、目を逸らして小さく溜め息をついた。
……あ、話したくない感じですね。
心の中で相槌を打ちつつも、私は釈然としない想いを抱く。
(……なんかモヤモヤする。部長がどんな事情を抱えていようが、どうでもいいはずなのに)
「その辺りを話すためにも、食事をしないか?」