部長と私の秘め事

初デート

 改めて誘われた私は、また溜め息をついてしばし考える。

 ……ハッキリ言って、部長に興味を持ったのは確かだ。

 あんなセックスをされて、意識するなというほうが無理だと思う。

 でも一回抱かれてハイジュエリーを贈られたからと言って、すぐ好きになるなんてチョロすぎる。

 ――私はそんな軽い女じゃない。

 自分に言い聞かせるも、ここで断ったら部長が「じゃあいいわ。迷惑掛けて悪かったな」と退くような気がしてならない。

 こんな人と両想いになれる訳がないし、あとで傷付く前に、今のうちに身を退いて〝なかった事〟にしたほうがいい。

 なのに心の奥にいるもう一人の私が、部長の事を気にしてならない。

 ――もしもうまくいったらどうする?

 ――部長の事が嫌いって言っても、ろくに話した事ないでしょ。

 ――ちゃんとお互いの事が分かるまで話し合って、それから考えてみても良くない?

(うるさい……)

 私はもう一人の自分に向かって呟き、溜め息をつく。

 それからチョロい女と思われないように、思いきり嫌な顔をして言った。

「お肉を食べる間、話を聞いてあげます」

 物凄く上から目線で言ったのに、部長は「約束な」と嬉しそうに笑った。

「……あの、ジュエリー返させてくださいよ」

「いらねぇって」

 押し問答をしてからチラッと腕時計を見ると、そろそろ昼休みが終わりそうだ。

「……とりあえず、仕事があるので戻ります」

 私はそういって、そそくさと会議室をあとにした。



**



 金曜日、会議が終わってみんなでゾロゾロ歩いている時、会議に出席していた部長が後ろに立った。

「上村さん、さっきの企画書について、一箇所確認したいところがあるんだけど」

「はい」

 部長に話しかけられ、私は立ち止まる。

「コンセプトのキャッチコピーだけど……」

 言いながら、部長は私のジャケットのポケットにクシャリとメモを押し込んだ。

 彼が確認しているのは、キャッチコピーの〝てをには〟のニュアンスがどうこう……などだ。

「あ、なるほど。分かった」

 部長は一人で納得したあと、スタスタと歩いていく。

 廊下に一人残された私は、周囲に誰もいない事を確認してからポケットを探った。

 白いメモ帳には、部長の電話番号とメッセージアプリのIDが書いてある。

 登録しておけ、という事なんだろう。

(結局、何だかんだで食事に行く事になったしな……)

 いいお店なら、お洒落をしないとならないんだろうか。

 ああ見えて部長は気遣いの人だから、ドレスコードがある店ならメモに一言書くだろう。

(カジュアルすぎない服なら、多分大丈夫かな)

 私は溜め息をつき、メモをまたポケットに入れた。



**



 メッセージアプリで部長と連絡をとってスケジュールを擦り合わせた結果、土曜日の昼間にデートをする事になった。

 午前十時に有楽町駅に待ち合わせをした私たちは、映画館でアクション映画を見る。

 ちなみにジュエリーを紙袋に入れて持ってきたけど、やっぱり部長は受け取ってくれなかった。

 なので諦めて、持ち歩いたまま映画を見る事となる。

 私は映画好きで、気になった映画はお一人様でもハシゴして見るタイプだ。

 何でも知っている訳じゃないし、超有名な映画を見た事がなかったり、SFやアメコミ系をあまり見ないなど、偏りはある。

 でも仕事じゃないし、「自分の好みに合ったものを楽しめたらいいや」というスタンスで映画活動をしている。

 部長は前日に封切りされた、映画に誘ってくれた。

「すっごかったですね! 車から一度も降りずにストーリーが続くのが凄い!」

 普段なら一人で映画の余韻に浸っているところだけれど、今は同じ体験をした相手が側にいるので、私は大興奮してペラペラ喋る。

 すると部長が私を見て、クスクス笑っているのに気づく。

「何か?」

 目を瞬かせて尋ねると、彼は「いや」と笑う。

「好きなものについて語る時、そんなに生き生きした表情を見せるんだな。いつも、割と淡々としてるイメージがあったから意外だ。仕事で没を出されても、粘り強く挑んでくる面があるのは知っていたが、それ以外の顔はあまり知らなかった」

 意外とこの人、私の事見てるんだな……。

 そう思うと、少し照れくさくなった。

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