部長と私の秘め事
『篠宮さん、大人になって凄く格好良くなりましたけど、……あんまり幸せそうじゃないですね。パッと見イケメンなのに、雰囲気がめっちゃ不健康で暗いです。ぶっちゃけ、病んでる感じがして恐いです』

 ズバッと言われ、さすがに笑ってしまった。

『大人になったら色々あるんだよ』

 俺はそれっぽい事を言ってごまかし、中村さんから学生生活や朱里、田村の話を聞いた。

 中村さんは二人前のアフタヌーンティーの菓子をペロッと食べ、ミルクと砂糖を入れた紅茶を飲んで俺を見る。

『…………で、何ですか? 今まで報告を受けるだけだった篠宮さんが、私を呼び出してご馳走してくれて終わり……、じゃないでしょう?』

 鋭く指摘され、俺は暗い笑みを浮かべる。

『前に中村さんは、進路は朱里次第だって言ってたよな? それは今も変わらない?』

 話が真面目なものになり、彼女は少し表情を引き締める。

『変わってません。心変わりするかな? って思いましたが、今でも朱里が好きです。彼女は田村と付き合ってますし、恋愛対象が男性なのも分かっています。でも私は親友として側にいられるならいいです。それに私、男子の事もちゃんと恋愛対象に見られるっぽくて、隠れ蓑的に付き合うならできそうです。だから結婚したあとも、朱里とずっと親友でいられたらなって思ってます』

 ボーイッシュな彼女は爽やかに笑いながら、ドロドロの執着を見せる。

 そんな彼女だからこそ〝話せる〟と思った。

『なら、同じ就職先があったら嬉しくないか?』

 俺は笑みを深め、ソファに預けていた体をゆっくり起こした。

 そして懐に手を入れ、篠宮フーズの名刺を出してテーブルの上に滑らせる。

 ――父に確認はとった。

 ――怜香に内緒で人事に融通を利かせる事は可能だ。

 ――あの男も、たまには役に立つところがあるじゃないか。

『俺は篠宮ホールディングスの社長の息子だ。……婚外子だけどな。そこなら君たち二人を一緒に雇用する事ができる』

 中村さんは名刺を手に取って読んでから、慎重に俺の表情を伺う。

『…………何が望みですか?』

『…………〝朱里〟』

 俺は迷わず、中村さんの想い人の名前を口にする。

『好きなんですか?』

『まさか。未成年に興味はない。……ただ、あの子を手元に置いて、その安全と健康を見守っていたい』

『就職する年齢になれば立派な大人です。見守るだけじゃ済まないでしょう』

 中村さんは俺をひたと見据え、核心をついてくる。

『……さぁな。先の事は分からねぇよ。今の朱里に手を出すつもりはないが、君の言う通り、大人になったら見方が変わるかもしれない。けど、朱里が新卒で入ってくる頃には、俺は二十八歳だ。誰かと付き合ってるかもしれないだろ』

 自分で言っておきながら、その可能性は限りなく低いと思っていた。

 時々つまみ食いはするものの、相変わらず朱里以外の女への期待値はゼロだ。

『ズバリ聞くけど、中村さんは田村クンの事を気に入ってる? 彼になら朱里を任せられると思ってる?』

 尋ねると、彼女はさりげなく目を逸らした。

 ――不満に思ってるんだろ。分かってる。

 俺は心の中でニヤリと笑った。

 中村さんは俺があまり返信しないのをいい事に、メッセージで壁打ちするように田村への不満をツラツラと書いていた。

 朱里から『昭人とは価値観が合わない』と聞いた中村さんは、田村を『朱里に相応しくない男』と判断している。

 一緒にいて楽な存在でも、恵まれた環境で育った田村と〝訳アリ〟の俺たちとでは、根本的に考え方が違う。

 ――あんな奴に朱里の相手が務まるもんか。

 そこが俺の狙い目だった。

 中村さんは少し迷ったあと、決まり悪そうに言う。

『朱里は田村くんを〝好きで堪らない〟感じではないと思います。どっちかというと、孤独予防の穴埋めというか……。あの子、いつもどこか遠くを見ているんですよね。田村くんの事は一応好きで彼氏として扱ってるけど、彼を通して誰かを見ている気がします。……田村くんは朱里を好きみたいだけど、あいつは口を開けば〝可愛い〟〝胸が大きい〟ばっかり。外見しか目に入ってないのかっつーの』

 そう言って中村さんは不機嫌そうに唇を尖らせた。

『俺はどう?』

『え?』

 いきなりそう言われた中村さんは、目を丸くする。

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