想いと共に花と散る
 互いに一言も話さない沈黙が流れる。
 空を上げた雪は、目の前に広がる曇りのない青空に静かに見入った。

「はーい、みたらし団子やでー……って、何二人でぼんやりしてんの。暗い雰囲気が店の中まで届いてんやけどー?」

 お調子者の小夜が来なければ、雪と沖田はいつまで経っても口を開けなかったかもしれない。
 小夜がみたらし団子が乗った皿を長椅子の上に置くと、雪はようやく彼女に顔を向けた。
 沖田との間に流れていた気まずい雰囲気を壊してくれた小夜に、雪は密かに心の中で感謝する。

「別にそんな事ない、気の所為だから。小夜が元気すぎるんじゃない?」
「それこそ気の所為やと思うけどー? まあ、元気そうやからええけどね」

 おちゃらけた様子のまま、小夜は雪の隣に腰を下ろした。
 一応は勤務時間のはずなのだが、こんなところで油を売っていていいのだろうか。
 ふとそんなことを考えるが、自分達も屯所へ帰らないといけないのにここにいるのだから、人のことは言えない。
 長らく会っていなかったせいなのか、ここでもまた沈黙が流れた。

「……ねぇ」

 そんな沈黙を打ち破ったのは、先程の明るさを失った小夜の沈んだ声である。
 雪と沖田は俯く小夜へと視線を向ける。ただならぬ空気を感じ取ったのは、雪だけではない。

「その羽織って、さ……会津藩お預かりになったっていう」
「うん。俺達は京の治安を守るために新しい名をもらったんだ」
「そ、っか。それは、沖田君達にとっては喜ばしいことやんね。大変そうやけど」
 
 本当に言いたいことはこんなことではない、そう小夜の横顔は物語っていた。
 
「小夜、何かあった?」

 俯く小夜の顔を覗き込みながら問いかけると、彼女ははっと目を見開いた。
 上げた顔に浮かぶその表情は、豆鉄砲を食らった鳩のよう。図星を指されたと顔に書かれている。

「……あ…………う……えっと……」

 天真爛漫という言葉を具現化したような性格の小夜が、こんなにも言葉を詰まらせるとは珍しい。
 それだけ言い出しにくいことなのだろうか。
 今の雪には、彼女の内に秘められている疑念など感じ取れるはずがなかった。

「……これは、お客さんらが話しとるところを聞いただけやから本当かは……分からないんやけど」

 ようやく耳にできた小夜の声は、何かに脅されているのか恐怖に震え、小さな小さな声であった。
 
< 139 / 270 >

この作品をシェア

pagetop