想いと共に花と散る
届かぬ声
屯所の奥まった位置にある一室の中心に布団を敷き、その上で雪は静かに横たわっていた。
額から右目に掛けて厚く包帯が巻かれ、掛け布団から覗く顔には至る所に掠り傷がある。
「額に硬い物で殴られた傷が一つ。横腹には強い衝撃を受けたことにより痣が広がっていました。そして何より、この高熱。感染症によるものではないと思われますが、安心はできません」
布団を囲うようにして、近藤、土方、山崎が向かい合って座っている。
医術の心得がある山崎が傷の手当をしたお陰で、雪の傷の状態自体は安定していた。
しかし、真冬の夜に長時間外にいた事、大怪我を負ったことが重なって雪は高熱を出していたのだった。
「何故、こんなことに……」
「辻斬りに襲われたとのことでしたが、この有り様は確かな悪意の裏返しでしょう。初めからこうして傷つけることが目的だった、そう考えるしか無いかと」
雪が屯所から姿を晦まし、土方達が夜間にその捜索に出たこと自体は近藤にも伝わっていた。
けれど、近藤は沖田が傷だらけで眠る雪を抱えて帰還したのを見てからというもの、ずっと頭を抱えて唸っている。
近藤という男は、普段は頼れる局長として慕われるが、こういった非常事態に立ち会うと途端に頼りなくなる男であった。
ぶつぶつと唸りを上げる近藤を横目に、土方は静かに息を吐く。
「前に永井が己が仕出かしたことの成り行きを白状した。“早川は無関係の娘を弄んでいる”という話は、恐らく雪に手紙を送ったあの小夜とかいう娘のことだろう」
「早川は事前にその娘を脅し、親密な関係の雪殿から狙った……ということでしょうか」
「こいつを潰せば、俺達も総倒れで潰しに掛かれるとでも思ったんだろうな」
小夜とは雪だけでなく、行きつけの甘味処の看板娘ということもあって沖田とも親しい。
そして雪と沖田も壬生浪士組の頃からの長い付き合いとなっていた。雪という存在を潰されれば、芋蔓式に他の新撰組隊士が壊れるのも必然的なこと。
早川はその傷を的確に抉り取って来ていた。
「……トシ。私は許せんよ、たとえ仲間であろうと」
「俺は新撰組の副長だ。副長は局長の命に従うもんだが、時には手綱を握って制御しねぇとならんこともある。だが、今回はあんたの意思に従うぜ」
その言葉の裏にあるのは、「近藤が早川に処分を下すのならば、自分もその隣りに立つ」という覚悟であった。
長らく俯いていた近藤は顔を上げ、静かに眠る雪の熱で紅潮した頬にそっと触れる。
悲しげなその横顔は、娘を見守る父親のようにも見えた。
「一番隊所属、早川兼定。その他、共犯である隊士に明日の朝処分を言い渡す」
額から右目に掛けて厚く包帯が巻かれ、掛け布団から覗く顔には至る所に掠り傷がある。
「額に硬い物で殴られた傷が一つ。横腹には強い衝撃を受けたことにより痣が広がっていました。そして何より、この高熱。感染症によるものではないと思われますが、安心はできません」
布団を囲うようにして、近藤、土方、山崎が向かい合って座っている。
医術の心得がある山崎が傷の手当をしたお陰で、雪の傷の状態自体は安定していた。
しかし、真冬の夜に長時間外にいた事、大怪我を負ったことが重なって雪は高熱を出していたのだった。
「何故、こんなことに……」
「辻斬りに襲われたとのことでしたが、この有り様は確かな悪意の裏返しでしょう。初めからこうして傷つけることが目的だった、そう考えるしか無いかと」
雪が屯所から姿を晦まし、土方達が夜間にその捜索に出たこと自体は近藤にも伝わっていた。
けれど、近藤は沖田が傷だらけで眠る雪を抱えて帰還したのを見てからというもの、ずっと頭を抱えて唸っている。
近藤という男は、普段は頼れる局長として慕われるが、こういった非常事態に立ち会うと途端に頼りなくなる男であった。
ぶつぶつと唸りを上げる近藤を横目に、土方は静かに息を吐く。
「前に永井が己が仕出かしたことの成り行きを白状した。“早川は無関係の娘を弄んでいる”という話は、恐らく雪に手紙を送ったあの小夜とかいう娘のことだろう」
「早川は事前にその娘を脅し、親密な関係の雪殿から狙った……ということでしょうか」
「こいつを潰せば、俺達も総倒れで潰しに掛かれるとでも思ったんだろうな」
小夜とは雪だけでなく、行きつけの甘味処の看板娘ということもあって沖田とも親しい。
そして雪と沖田も壬生浪士組の頃からの長い付き合いとなっていた。雪という存在を潰されれば、芋蔓式に他の新撰組隊士が壊れるのも必然的なこと。
早川はその傷を的確に抉り取って来ていた。
「……トシ。私は許せんよ、たとえ仲間であろうと」
「俺は新撰組の副長だ。副長は局長の命に従うもんだが、時には手綱を握って制御しねぇとならんこともある。だが、今回はあんたの意思に従うぜ」
その言葉の裏にあるのは、「近藤が早川に処分を下すのならば、自分もその隣りに立つ」という覚悟であった。
長らく俯いていた近藤は顔を上げ、静かに眠る雪の熱で紅潮した頬にそっと触れる。
悲しげなその横顔は、娘を見守る父親のようにも見えた。
「一番隊所属、早川兼定。その他、共犯である隊士に明日の朝処分を言い渡す」