想いと共に花と散る







「随分と入り浸ってるみたいじゃねぇか」

 雪の部屋を出て廊下を歩いていると、ふと、そんな不機嫌そうな男の声が聞こえた。
 声が聞こえた方向に目を向ければ、縁側に座って庭を眺める土方がいる。

「悪いですか?」
「いや、別に」

 別段不機嫌というわけではないのに、気づけば棘のある言い方をしてしまう。
 着流し姿の土方の隣に腰掛け、沖田も同じ様に目の前に広がる景色に目を向けた。
 空はすでに赤く焼け始め、黒く耳障りな声で鳴く鳥が視界を横切って行った。

「……なあ、情なんて持つもんじゃねぇだろ」

 喉から無理矢理絞り出したような、苦しげな土方の声が聞こえた。 
 空を見るために上げていた顔を下げ、沖田は隣りに座っている土方を見つめる。

「こっちは頭抱えてこんなになってるってのに、当の本人は呑気に寝てやがる」
「……本当ですよ」
「今すぐにでも叩き起こしてやりてぇどころだが、どうにも責任は俺らにあるからな。そういうわけにもいかねぇ」
「全くです」

 少し、頭を冷やしたかった。
 あのまま部屋に籠もっていれば、自分ですら聞きたくもないことを口走りそうだったのだ。
 だから、土方のくだらない愚痴にも黙って耳を傾けられた。いつもなら、「何を言っているんだ」と切って捨てるものだが。

「情なんて、持つものじゃない」

 手にするだけで頭が回らなくなって、見ているだけで息苦しくなる。
 そんな“情”なんて、無い方がずっと楽だった。

「でも、情がなかったら……俺には剣しか残らなくなる。それは、嫌だ」

 膝の上に置いていた手を握り締め、沖田は歯を食いしばった。
 新撰組の一番隊組長である前に、自身は一人の人間であると証明するには情が必要なのだ。
 それすら失ってしまえば、自分は人間としての心を失うことになる。
 喜びも、悲しみも、怒りも、何もかもを失って、その先には一体何があるのかと。
 問うても答えは見つからない。情があるから、答えなど無くても生きていられた。

「土方さん、俺は人でなくなるのが怖い。たとえ、周りが同じ志に向かって剣を振るうとしても、信じた道を踏み外すことだけはしたくありません」

 何のために刀を振るい始めたのか、今はもう忘れてしまった。
 否、始めから理由なんて無かったのかもしれない。ただ、才があったから、することがなかったから始めたに過ぎなかったのかもしれなかった。
 けれど、今ではその理由があった。

「守りたいと思う存在が、できましたから」
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