想いと共に花と散る
 自分の命に変えても、守りたい。たとえ死する時まで傍にいられないとしても、生きていてほしい。
 人間として生まれたのだから、最後も人間らしくその生涯を終えてほしい。
 そのためだったら、自分は傷ついてもいいと思えた。

「だってよ、近藤さん」
「えっ………!」

 それまで静かに話を聞いていた土方が、ふいに振り返って言った。
 思わず沖田も後ろを振り返る。そこには、随分と穏やかな微笑みを浮かべた近藤が立っていた。

「……大きくなったものだな、宗次郎」

 近藤はこうしてかつての幼馴染が揃った時、決まって沖田のことを「宗次郎」と呼ぶ。
 宗次郎とは、将軍警護のために浪士組に入った時に改名する前の名だ。
 幼馴染である近藤だからこそ知っている、かつての関係性を忘れないための手段であった。

「お前は、剣の腕はずば抜けていたが、それ以外はてんで駄目だったからなぁ。特に、トシへのいたずらといったら───」
「そんな事を言いに来たわけじゃねぇだろ」
「……そうだったな」

 土方の指摘に小さく笑みを落とすと、何を思ったのかその大きな手を沖田の頭に乗せた。

「わっ……」
「心配するのもまた、人として生きる人情だ。感情に振り回され、自暴自棄になるのもまた人情」

 難しいことを言っているようで、案外すんなりと理解できる言葉だった。
 靄が掛かっていた視界が晴れた気がして、沖田は数回瞬きを繰り返す。
 それでも、目の前の景色は晴れたまま変わらなかった。

「刀を握る者も、そうでない者も。志を持つ者も、持たぬ者も、皆人として生まれ人として生きる」
「人として……」
「そうだ。守りたい存在があるというのは、武士として生きる上でこの上ない幸福だぞ。誇ればいいさ」

 屈託のない笑顔を浮かべ、わしわしと乱暴に頭を撫でると近藤は手を離した。
 乱れた髪を整えながら、沖田は自分よりもずっと大きな近藤を見上げる。

「お前のような人情溢れる弟がいて、私は嬉しいよ」

 この瞬間だけは、皆に頼られる局長も、恐れられる鬼の副長も、剣鬼もいない。
 ただ、生まれも年齢もバラバラだったはずの幼馴染が一同に会し、互いの存在を確かめていた。

「さあ、もう夜も遅い。明日に備えてもう休もう」
「そうだな。どうせ、明日もあいつの部屋に行くんだろ。なら、お前くらいは元気な面見せろよ」
「……土方のくせに」
「あ? 何か言ったか?」
「いいえ、何も。鬼の副長にそんな優しい言葉は似合わないなと思っただけです」

 沖田は、この時に初めて知る。人情も、憐憫も、全て一人では得られないものであると。
 形はどうであれ、家族という存在は確かに己の士道を認めてくれていたのだ。
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