想いと共に花と散る
確かに、近藤の言う通り近頃忙しかったのは事実である。
八月十八日の政変の後、新撰組と改名して、芹沢鴨を粛清し、屯所を移転し、局中法度が生まれ、辻斬り騒動に巻き込まれた。
ほぼ半年という時間でこれだけの出来事があったのだから、とうに皆の身体は悲鳴を上げている。
一日、任務のことを考えず好きに過ごせる時間を設けるのは、ある意味得策でもあった。
「なんだ、反応が薄いな……。雪君、君はどうだい?」
「ええ!?」
「花見、皆で行かないか?」
こういう時、近藤は雪へと判断を促す癖が付いていた。雪の判断なら、皆が従うと味を占めたからである。
皆の視線が雪へと向かい、近藤からは期待の眼差しを向けられる。
口をパクパクと開けたり閉めたりしながら、雪は戸惑った。
「……う、えっと………花見、花見……」
脳内が暴れ回り、まともに考えられない。
それでも、雪の頭の中に浮かんだのは、皆が花見をして笑っている様子であった。
「行きたいです……」
「雪君ならそう言うと思ったぞ! ほら、皆も異論はあるまい」
有無を言わせぬ勢いで話をまとめた近藤は、すっかりその気になっていた。
隣からものすごく鋭い目を向けられた気がするが、気づかないふりをして味噌汁を飲み干す。
近藤の思惑通り、雪が行きたいと言えば拒絶する者はいない。
皆が呆れた様子でありながらも、楽しげに笑う近藤を見て静かに頷いた。
「花見か。まあ、たまには悪くないな」
味噌汁を啜りながら、初めは反対派にいた永倉が呟く。
「花見をすんなら、やっぱ酒は欲しいよな!」
「潰れて介抱されるまで飲むんじゃねぇぞ。屯所じゃなくて外でやんだからな」
「分かってるって! ほんと左之さんって俺に厳しいのな!」
永倉と打って変わって、初めから賛成派だった藤堂と原田は、そんなくだらない話をしては視線の間に火花を散らせた。
二人の向かい側に座る山南と井上は、苦笑を零しながらも穏やかな雰囲気を醸し出す。
皆が束の間の休日を得られることに喜ぶ中、この二人は何処か腑に落ちていない様子であった。
「雪はまだ目が覚めたばかりなんだ。あまり出歩くのは身体に障ると思うんだけど」
「こればっかりは総司の言う通りだな。辻斬り騒動は収まったとは言え、京の治安は悪ぃんだからよ」
土方はともかく、沖田までもが反対するは誰も思ってもみなかった。
何処か厳しさを宿した声音は、雪に鋭く刺さる。
「嫌、ですか?」
そんな二人を交互に見やりながら、雪は眉を下げて問う。
雪自身、彼らと関わるのはこうした食事時だけであったため、一日中共にいられると考えると惹かれてしまった。
大きな桜の木の下で皆が酒を飲んだり美味い料理を食べながら笑う。
そんな日があっても悪くはない、そう思ってしまったのが正直なところだった。
「……雪にそんな顔されちゃ、断れないや」
純粋に心の底から湧き上がる喜びに雪は笑う。その笑顔を見る沖田の瞳に悲しげな色が滲んだことなど、誰も気づきはしない。
「土方さん……」
「わぁったよ。どうせ、何言ったって諦めねぇんだろうしな」
こうして、異例ながらも新撰組には一日限りの休日が与えられることになった。
八月十八日の政変の後、新撰組と改名して、芹沢鴨を粛清し、屯所を移転し、局中法度が生まれ、辻斬り騒動に巻き込まれた。
ほぼ半年という時間でこれだけの出来事があったのだから、とうに皆の身体は悲鳴を上げている。
一日、任務のことを考えず好きに過ごせる時間を設けるのは、ある意味得策でもあった。
「なんだ、反応が薄いな……。雪君、君はどうだい?」
「ええ!?」
「花見、皆で行かないか?」
こういう時、近藤は雪へと判断を促す癖が付いていた。雪の判断なら、皆が従うと味を占めたからである。
皆の視線が雪へと向かい、近藤からは期待の眼差しを向けられる。
口をパクパクと開けたり閉めたりしながら、雪は戸惑った。
「……う、えっと………花見、花見……」
脳内が暴れ回り、まともに考えられない。
それでも、雪の頭の中に浮かんだのは、皆が花見をして笑っている様子であった。
「行きたいです……」
「雪君ならそう言うと思ったぞ! ほら、皆も異論はあるまい」
有無を言わせぬ勢いで話をまとめた近藤は、すっかりその気になっていた。
隣からものすごく鋭い目を向けられた気がするが、気づかないふりをして味噌汁を飲み干す。
近藤の思惑通り、雪が行きたいと言えば拒絶する者はいない。
皆が呆れた様子でありながらも、楽しげに笑う近藤を見て静かに頷いた。
「花見か。まあ、たまには悪くないな」
味噌汁を啜りながら、初めは反対派にいた永倉が呟く。
「花見をすんなら、やっぱ酒は欲しいよな!」
「潰れて介抱されるまで飲むんじゃねぇぞ。屯所じゃなくて外でやんだからな」
「分かってるって! ほんと左之さんって俺に厳しいのな!」
永倉と打って変わって、初めから賛成派だった藤堂と原田は、そんなくだらない話をしては視線の間に火花を散らせた。
二人の向かい側に座る山南と井上は、苦笑を零しながらも穏やかな雰囲気を醸し出す。
皆が束の間の休日を得られることに喜ぶ中、この二人は何処か腑に落ちていない様子であった。
「雪はまだ目が覚めたばかりなんだ。あまり出歩くのは身体に障ると思うんだけど」
「こればっかりは総司の言う通りだな。辻斬り騒動は収まったとは言え、京の治安は悪ぃんだからよ」
土方はともかく、沖田までもが反対するは誰も思ってもみなかった。
何処か厳しさを宿した声音は、雪に鋭く刺さる。
「嫌、ですか?」
そんな二人を交互に見やりながら、雪は眉を下げて問う。
雪自身、彼らと関わるのはこうした食事時だけであったため、一日中共にいられると考えると惹かれてしまった。
大きな桜の木の下で皆が酒を飲んだり美味い料理を食べながら笑う。
そんな日があっても悪くはない、そう思ってしまったのが正直なところだった。
「……雪にそんな顔されちゃ、断れないや」
純粋に心の底から湧き上がる喜びに雪は笑う。その笑顔を見る沖田の瞳に悲しげな色が滲んだことなど、誰も気づきはしない。
「土方さん……」
「わぁったよ。どうせ、何言ったって諦めねぇんだろうしな」
こうして、異例ながらも新撰組には一日限りの休日が与えられることになった。