想いと共に花と散る
小夜に化粧をしてもらい、甘味処を出た雪が向かうは、呉服屋の店主の元だ。
以前は出しで出歩いていた雪を見兼ねて草履を貸してくれたように、この時も小夜は真新しい下駄を貸してくれた。
履き慣れない下駄に四苦八苦しながら走る雪は、呉服屋に着くや否や店内に飛び込む。
「おじさん!」
「はいはい、お客さんやろか……って、おやまあ、あんさんは前に袴を買うてかはったお嬢さんかい?」
「この着物を着た姿を見せるって約束をしたので、それを果たしに来ました」
店の奥にいた店主は驚いて目を見開き、すぐに飛び出てきて雪の着物姿を目に焼き付けた。
「ああ、やっぱりよう似合っとる。お綺麗です」
「ありがとうございます!」
約束を果たすのが遅くなってしまったが、これで心置きなく皆の元へ行ける。
呉服屋を出た雪は、今度こそ新撰組の皆が待つ花見会場へと駆け出した。
町を抜け、橋を渡り、川に沿って連なる桜並木の下を走る。やがて、遠くの方から騒がしい声が聞こえてきた。
「あっ、おーい! 平助君!」
一番初めに目が入ったのは、立ち止まって桜の木を見上げている藤堂だった。
雪の声に反応した藤堂は、いつもの無邪気な笑顔を浮かべて振り返る。しかし、駆け寄る雪の姿を見て、ぽかんと口を開けて固まってしまった。
「お、おま……お前、その格好………」
藤堂も雪の袴を買いに行ったため、今の雪が来ている着物がその時に買ったものであると知っている。
だからこそ、普段は男装をして過ごしている雪が着飾っている姿を見て唖然としたのだ。
状況が飲み込めていないらしい藤堂の声を聞きつけて、他の面々も集まってくる。
「ちょっと、平助。こっち手伝ってよ……って」
「お、おい……誰だ、その娘」
「平助! いつの間に女なんか作ってんだ!」
次から次へと驚きの声が投げかけられる。女物の着物を着て、化粧をしているのだからその反応は無理もない。
雪の悪巧みとは、こうして女らしい格好で彼らの前に現れること。
期待通りの反応を見せた彼らを見て、雪はしてやったりといたずらが成功した子供のように笑った。
「うるせぇんだよてめぇら! 何をそんなに騒がしくし、て………」
しかし、これは予想外であった。
「あ、土方さん!」
後からやって来た近藤の後ろで怒鳴る土方は、雪の姿を見るなり銅像のように固まった。
そして、さっと目を逸らす。髪の間から覗く耳は、真っ赤に染まっていた。
「……あの、熱でもありますか? 顔真っ赤ですけど」
「ね、ねぇよ。つか、何だその格好」
決して雪の方を見ようとはせず、目を逸らしたまま土方は言った。
以前は出しで出歩いていた雪を見兼ねて草履を貸してくれたように、この時も小夜は真新しい下駄を貸してくれた。
履き慣れない下駄に四苦八苦しながら走る雪は、呉服屋に着くや否や店内に飛び込む。
「おじさん!」
「はいはい、お客さんやろか……って、おやまあ、あんさんは前に袴を買うてかはったお嬢さんかい?」
「この着物を着た姿を見せるって約束をしたので、それを果たしに来ました」
店の奥にいた店主は驚いて目を見開き、すぐに飛び出てきて雪の着物姿を目に焼き付けた。
「ああ、やっぱりよう似合っとる。お綺麗です」
「ありがとうございます!」
約束を果たすのが遅くなってしまったが、これで心置きなく皆の元へ行ける。
呉服屋を出た雪は、今度こそ新撰組の皆が待つ花見会場へと駆け出した。
町を抜け、橋を渡り、川に沿って連なる桜並木の下を走る。やがて、遠くの方から騒がしい声が聞こえてきた。
「あっ、おーい! 平助君!」
一番初めに目が入ったのは、立ち止まって桜の木を見上げている藤堂だった。
雪の声に反応した藤堂は、いつもの無邪気な笑顔を浮かべて振り返る。しかし、駆け寄る雪の姿を見て、ぽかんと口を開けて固まってしまった。
「お、おま……お前、その格好………」
藤堂も雪の袴を買いに行ったため、今の雪が来ている着物がその時に買ったものであると知っている。
だからこそ、普段は男装をして過ごしている雪が着飾っている姿を見て唖然としたのだ。
状況が飲み込めていないらしい藤堂の声を聞きつけて、他の面々も集まってくる。
「ちょっと、平助。こっち手伝ってよ……って」
「お、おい……誰だ、その娘」
「平助! いつの間に女なんか作ってんだ!」
次から次へと驚きの声が投げかけられる。女物の着物を着て、化粧をしているのだからその反応は無理もない。
雪の悪巧みとは、こうして女らしい格好で彼らの前に現れること。
期待通りの反応を見せた彼らを見て、雪はしてやったりといたずらが成功した子供のように笑った。
「うるせぇんだよてめぇら! 何をそんなに騒がしくし、て………」
しかし、これは予想外であった。
「あ、土方さん!」
後からやって来た近藤の後ろで怒鳴る土方は、雪の姿を見るなり銅像のように固まった。
そして、さっと目を逸らす。髪の間から覗く耳は、真っ赤に染まっていた。
「……あの、熱でもありますか? 顔真っ赤ですけど」
「ね、ねぇよ。つか、何だその格好」
決して雪の方を見ようとはせず、目を逸らしたまま土方は言った。