想いと共に花と散る
 あっという間に辺りには剣が交わる音と、怒号に満たされる。
 刀を握り、すっと目を細めた近藤は、周囲と自身を切り離すべく精神を張り巡らせた。

「お前達、無理に突っ込むな!」

 尊攘派の志士の怒号が響き渡ると共に、辺りに並べられていた膳がひっくり返る。
 部屋の入口に立っていた近藤の前には膳が転がり、一瞬にして距離が開いた。
 だが、そんな事は関係ない。
 激しい舌打ちを零した近藤は、眼前に刀を構えて志士達を睨め付ける。

「うおおおおおおお!」

 集中力が頂点に達するかと思われたその時、部屋の隅に固まった志士達の最前にいた男が脇差を抜いて近藤に斬り掛かった。
 暗闇でも分かるほど頬が紅潮している。男が目の前にまで来ると、酒の匂いが鼻の奥を刺した。
 酔っぱらいに掛けてやる情など無い。
 近藤は目の前に迫った男に向かって、構えていた刀を振り下ろした。

「石川!」

 別の男の声が部屋に響き渡った時、近藤の背後から現れた別の新撰組隊士が袈裟に斬った。
 鈍い音を立てながら崩れ落ちる男から視線を逸らした近藤は、一瞬背後を振り返る。今斬り殺した男が反転してこないかと警戒したからだ。
 その隙を見計らって、独りの男が近藤の脇をすり抜けた。
 すかさず刀を構え直した近藤は、一瞬にしてその男を斬りつけた。

(手応えが浅い……)

 それもそのはず、斬ったはずの男は左腕を抑えて青白い顔をするだけだ。

「北添さん! 行け!」
「待て!」

 たった今斬った男を追いかけようと振り返ると、正面から別の志士が刀を振りかざしてきた。
 間一髪で近藤は刀を受けるが、左手に傷を負った男は部屋を逃げ出していく。

「総司! そっちは頼んだぞ!」

 届いているかも分からない近藤の声が二階に響く。
 ほんの一瞬の隙も許されない。少し気を抜けば、すぐに尊攘派の志士達は新選組の面々に斬り掛かってくるのだ。
 若い一人の男が近藤へと斬り掛かった。
 これまた間一髪で身を翻して避け、もう一度刀を構える。しかし、その男は正面から体当たりで近藤を壁際へと追いやり、その動きを封じた。
 
「兄上! 僕に構わずお逃げを!」
「離せっ! ここからは何人たりとも逃がしはせん!」

 近藤は重くもたれかかって来る男を蹴り飛ばし、すぐさま刀を構え直した。
 前の上に倒れ込んだ男に向かって刀を下ろそうとすると、横から入ってきた別の男に受けられる。
 その隙に若い男は近藤を押し退けて階下に逃げ出した。
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