想いと共に花と散る
 変わらず、首にできた刀傷が痛むことはない。
 浪士に刀を向けられた時に自分から傷を作るような真似をしたからなのか、それとも単純に感覚が麻痺しているのか。
 痛みを感じない理由は定かではないが、今この場でそれは大して重要なことではない。

「俺がこいつをここに連れて来たのは、その傷について聞きてぇことがあったからだ」
「トシ、一体何がしたいのだ」
「……しばらく静かにしててくれ。これはあんたに聞いてもらわねぇといけねぇが、口出しはされたかねぇことだからな」

 恐らく先程から何かと先人を切って話を進めようとする大男は鬼の上司だ。一見鬼の方が権力を持っていそうだが、決して大男には逆らおうとしない。
 そんな敬うべき相手にすら鬼は態度を変えず、荒っぽく横暴な物言いを崩さないでいた。

「俺はなぁ、てめぇみたいな顔をしてる奴が一番嫌いなんだ」
「……はあ?」

 改まって真剣な眼差しを向けられたから何を言われるかと思えば、鬼の口から飛び出してきたのは突拍子もない悪口であった。
 鬼の発言を聞いて声を上げたのは一体誰であっただろう。不安げな表情を浮かべる大男か、それとも自分自身か。

「ト、トシ……。年頃の女子になんてことを言うんだ」
「あんたはこの首の傷ができた時のこいつの顔を見ちゃいねぇ、だから分からねぇんだよ。どれだけこいつが愚かで、腹立つ顔をしていたのかなんてな」

 最早、その眼光だけで人を殺せそうだ。それほどまでにこの鬼が向ける視線は、それこそ刀のような鋭さを宿している。
 
「何もかも捨てて、全てに絶望したみてぇな顔だ。楽になりたいだったか? 大して生きてもねぇくせに死にたがるなんざ、俺にはあの浪士どもよりも愚かに見えるぜ」
「なっ! 何ていうこと言うんだトシ!」

 鬼の侮辱とも取れる発言に大男は強く反論した。大男は鬼を怒りを含んだ目で睨みつけるが、全身でそれらの怒りを受けても鬼はこちらから目を離そうとしない。
 その鋭い光を宿した瞳で睨めつけてきた。傍らに置いている刀なんてなくとも人を殺せるのではなかと思ってしまうが、そんなことを彼に知られたりでもすれば今度こそ命はない。
 目を逸らすことすら憚られて鬼を見つめると、彼もまた目を光らせてじっと見てきた。
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