想いと共に花と散る
 建物の入口に立って、雪は思わず呆気に取られた。その隣には、同じ様に口を開けて固まる土方がいる。

『……でかい』

 二人の声が重なった時、目の前に聳える洋館の扉が開く。
 重厚な扉の開く先からは、雪と同い年くらいの少年が顔を出した。

「土方歳三さんと、そのお小姓さんですか?」

 突然名を呼ばれた土方がはっと我に返り、その少年に向き直る。
 何処か、沖田と藤堂を足して二で割ったような少年だ。二人の面影が彼に重なる。
 その少年は、土方の返事を聞く前に、姿勢を正して朗らかな笑顔を浮かべた。

「僕、市村鉄之助と申します! 本日より、土方さんの小姓を任されました」

 一歩、二歩と土方と雪に近づいた市村は、二人の手を取ってブンブンと振る。
 笑う市村を前にして、二人はただ呆気に取られた。

「ここまで遠かったでしょう。お部屋までご案内します」

 またまたにっこりと笑った市村は、背を向けて洋館の中へと入って行く。
 早々に手を振り払った土方と違って、雪は戸惑いに手を繋いだままになっていた。それをいいことに、市村は手を繋いだまま半ば引き摺るようにして歩き出す。
 背後から物凄く鋭い視線を送られた気がしたが、振り返らずに雪は手を引かれるまま市村の背を追った。

「只今戻りました!」

 勢いよく扉を開け放つと同時に、市村は部屋の中に向かって言い放つ。
 
「あら、お待ちしておりましたわ」

 てっきり、誰もいないものだと思っていた。
 新撰組の屯所にいた頃のように、土方には一人部屋が与えられていると思っていたのだ。
 けれど、部屋に入るなり想像もしていなかった美しい声が聞こえてきて、雪は思わずその場に立ち止まった。

「あっ、つねさん! また来ていたんですか!? お掃除は僕の仕事だと何回も言っているではありませんか!」
「兄様が全然構ってくれないから暇なのよ。それに、お掃除をして悪いことなんてないでしょう?」

 雪の手を離した市村は、部屋の中で箒片手に振り返った女性に元に大股で近づく。
 すると、二人はやけに親しげな様子で口喧嘩を始めた。

「……おい、何だあれは」
「分かりません……何を、見せられているんですかね」

 同じく、この状況に理解できていない土方が雪に耳打ちをした。
 目の前で繰り広げられる口喧嘩は、少し年の離れた姉と弟のじゃれ合いのように見える。女性が穏やかな話し方をするから、余計にそう感じるのだろう。
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