想いと共に花と散る
 口喧嘩は終わる様子がない。一方的に叱りつける市村と、大して気にした様子を見せない女性の不一致さがありありと感じられた。

「君達、二人が困っているだろう。そこら辺で辞めなさい」

 そんな時、不意に雪の隣から二人を嗜める声が飛んだ。
 土方と雪は、同時にその声が聞こえた方向へ目を向ける。視線の先から現れたのは、方から垂れ下がる一つ結びが印象的な男性。

「大鳥さん!」

 部屋の中からその男性を見るなり、市村は飛び出した。
 男性に駆け寄る後ろ姿には、くっきりと尻尾と耳が見える。その尻尾は激しく振られた。
 
「出迎えるのが遅くなってしまってすまない。土方君とその小姓の結城君だね」
「あんたは」
「僕は大鳥圭介。旧幕府軍、陸軍参謀を担っている」
「……あんたが大鳥さんか!?」
「お知り合いですか?」

 どうやら、この場で大鳥という男を知らないのは雪だけのようである。
 長髪の男性が大鳥であると判明するなり、土方は眉間に手を当てて深く溜息を吐く。
 市村鉄之助、つね、大鳥圭介、短時間でこれだけの人物と出会い、雪の頭は容量を超えて爆発しそうだ。

「俺を指揮官に推薦してここに呼び出した人だよ」

 そういえば、京にいた頃に大量の書状が土方宛に送られていた気がする。
 その書状を見てから、土方との蝦夷行きか決まったはずだ。

「大したもてなしもできず申し訳ない。少し、手間取っていてね」
「また、あのお方のせいですか?」
「こらっ、鉄。あまり人様で言うのではないよ」
「すみません……」

 飼い犬と、飼い主。完全に二人の間に犬と人を繋ぐリードが見えた。

「あのお方?」

 自分、こんなにも命知らずで空気の読めない人間だっただろうか。
 背後で土方が息を呑み、つねが口元に手を当て、市村が顔を青ざめ、大鳥が目を向いた。
 聞いてはならないことを聞いてしまったらしい。

「……お、おい! 何言ってやがる」
「い、いや……お偉いさんならご挨拶しておかないと」

 そういうことじゃねぇ。と、土方は頭を抱えて唸った。
 市村までもが頭を抱えてあたふたし始める。元はと言えば、市村が口を滑らしたからではないか。

「はは、ははは! あの人に挨拶をしておかないとなんて考えるのは君くらいだ」
「どういうことですか?」
「……会ってみれば分かるさ」

 訳が分からない。その「あのお方」とは一体誰なのだ。
 一向に教えようとしない大鳥に笑顔で誤魔化され続け、雪は首を傾げるだけであった。
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