想いと共に花と散る
 あいつはお前の玩具なんかじゃない。
 新撰組副長、土方歳三の小姓であり、勇気ある立派な一隊士だ。
 
「そりゃあ残念」

 この男には関係のないこと。興味を引こうが、気になっていようが、渡すつもりも触らせるつもりもない。
 いや、待て。何を言っている。
 自分のものでもないだろう、あの餓鬼は。
 あの餓鬼はあの餓鬼で、自分は主でしか無くて。その間にあるのは主従関係だけで。
 なんだ、なんなんだ。この想いは。

「無自覚は嫌われるぜ。素直になれ、鬼さんよ」

 バシッと音を立てて背中を叩かれる。あまりの強さに、手にしていた盃の中身が辺りに飛び散った。

「……ってぇ」

 一方的に言いたいことを言った榎本がその場を去り、再び土方は一人になる。
 部屋の端にいると、会場全体を見渡せた。見ている限り、宴は終わる気配がない。
 もうしばらくはこの時間に耐えるしかなさそうだ。そう思い、盃を傾けようとしたその時。

「ひ、土方さん!」

 あの小姓が話し掛けてきたのかと思った。恐る恐る機嫌を尋ねるような呼び方が同じだから、少しばかり期待してしまった。
 けれど、下げた視線の先にいるのは、幼いながらも初めから持ってした少年らしい顔つきをした子供。
 自分が話し掛けてきたと思った小姓とは違う、もう一人この場所に来て増えた小姓だった。

「何だ」
「あ、いえ。特に用があるとかではないのですが、お一人で寂しそうに見えたので」

 そんな風に見られていたのか。気配を消していたつもりだったが、どうにも目立ってしまったらしい。
 
「結城さん、素敵な方ですよねぇ」
「……はあ!?」
「まだちょっと他人行儀ですけど、笑う顔可愛いなぁ」

 えへへと頬を紅潮させながら、市村は杯を傾ける。この餓鬼、惚気るために話し掛けてきたのか。
 酔っている、酒に酔っているのだ。だからそんな事を言うのだ。
 素面で言っていたら餓鬼であろうと一発ぶん殴っている。
 と、言うか。この餓鬼は何を得意げに「笑う顔可愛いなぁ」とかほざいている。
 あの小姓の笑顔は自分がこの場にいる誰よりもたくさん見てきた。お前の知らないあいつの表情だって、仕草だって知っている。

(……くそっ)

 駄目だ。さっきから余計なことばかり頭に浮かんでは消えていく。
 あの小姓が近くにいないだけ、今はまだマシだった。
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