想いと共に花と散る
 極力目立つなと、歓迎会が始まる前に土方に言い聞かせられた。
 どうせ元から目立つような性格も見た目もしていないから、大丈夫だと高を括っていたけれど。

「あ? 何だって?」
「だぁかぁらぁ、じょうちゃんじゃないってばぁ!」

 立ち上がる寸前、市村が雪が持っていた皿を取り上げる。間一髪、残っていた料理が溢れることは防がれた。

「ああ? そ、そうか」
「いい? じょうちゃんちがう。じょうちゃんっていわない」
「お、おう」
「ゆき。ゆきってよべ」
「はあ?」

 どうしてそんな目で見る。どうして市村は今にも吐きそうな青白い顔をしている。
 大鳥も、榎本も、市村も、遅れて飛んできたつねも、皆が雪を見て焦りを顔に浮かべた。

「……結城君。何を飲んだのか、分かるかい?」
「へんなあじのみず!」
「それはお酒と言うんだよ……全く、なんてことをしてくれたんだ」

 すこぶる気分がいい。今なら何だってできそうだ。
 目上の大人に対しての敬語も忘れ、自分がどういった立場の人間なのかなど関係ない。
 目の前が霞むのは、呂律が回らないのは、どうしてなのだろう。

「鉄。水を持ってきてくれ」
「は、はいぃ!」

 頭がクラクラする。頬は火照って、冷えた指先で触れればじんわりと冷えを消していく。
 目の前にいる大鳥と榎本の顔が歪んで見えた。二人の顔が二重になって見える。

「っ! おい、嬢ちゃん!」
「結城君!?」

 あ、やばい。立ってられないかも。
 視界が上下逆転する。榎本の顔を見上げていたはずの視界には、会場の天井が映った。
 身体中から力が抜けて、頭で何も考えられなくなって。

「──……何をしてやがる」

 倒れるものだと思って身構えたのに、どれだけ経っても衝撃の一つもありはしなかった。

「……う、うぅ………」

 温かいなぁ。なんでこんなにも安心するんだろう。
 誰かの顔が見える。誰の顔なんだろう。まあ、別にいっか。

「お、お水持ってきまし……え、結城さん!?」

 ここも悪くない場所だ。心配してくれる人がいて、隣りに座ってくれる人がいて、揶揄ってくる人がいて、騒がしくて。
 まるで、あの頃過ごしていた屯所に戻ってきたみたいだ。
 運命なのかな。似たような人達と同じ屋根の下で暮らしていた頃が会った。出会いとは、全部最初から決まっているもの。

「おい! 寝んな!」
「せめてお水を飲んでから寝てください!」

 無理言わないでよ。
 こんなにも温かくて、安心するんだから。
 ここまで来るのにとっても時間が掛かったんだし、少しくらい眠らせて。
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