想いと共に花と散る
 
「……さん、……きさん、結城さん」
「わっ!」
「大丈夫ですか? 気分が優れないようでしたら、すぐお部屋に……」

 まずい。完全に自分の世界に入っていた。
 弟に心配される兄なんて格好つかない。沖田であれば笑ってくれるだろうが、藤堂は呆れてしまうだろう。

「う、ううん。大丈夫」

 私のことは心配しないで。と、言うよりも気になるものが目に入った。
 貼り付けた笑みを浮かべる雪の視線の先、大勢の女に囲まれる一人の指揮官が見たことのない笑顔を浮かべている。
 なんて顔を見せているんだ、指揮官様は。

「ちょ、ちょちょちょ! 結城さん!? 早食いはお身体に障ります! 落ち着いて!」
「むぐむぐむぐ……あぐ。もぐもぐ」
「結城さーん!」

 見てられない。チヤホヤされて笑ってばかりいる土方のことなど。
 遊び人だった頃の本性出してビンタでも何でも食らってしまえ。

「おうおう、元気いっぱいじゃねぇか嬢ちゃん。ほら、喉詰まらせんなよ」
「あいがおうごあいまう」

 何処から現れたのか分からない榎本がグラスを差し出してきて、反射的に雪は受け取った。
 透明の液体が入ったグラスを一気に傾け、中身を飲み干すとホッと息を吐く。
 何だか不思議な味がする水だ。

「あ、あわわわ……」
「だははは! まじで飲みやがった」

 鉄くん、どうしたの。そんなに慌てて。
 榎本さん、何がそんなに面白いんですか。
 何だか顔が熱い。頭の中がポワポワする。

「ゆ、結城さーん……これ、何本に見えますか?」

 そう言って、市村が目の前に指を立てて見せてくる。
 何本って……。

「えーっとぉ……よんほん!」
「二本ですっ! 榎本さん、駄目ではないですか! お酒を飲ませるなんて!」
「いやぁ、弱いにもほどがあんだろ。ははは!」
「笑い事ではないですってば!」

 どうしよう、どうしようと言いながら頭を抱えて焦る市村は、あちらこちらへと視線を彷徨わせた。
 落ち着かないといけないのは市村の方だ。そう言おうとしたのに、何故か言葉が出てこない。
 それどころか、何も考えられなくなってきた。
 一体何をしているのだろう。船に乗って、蝦夷に来て、変わった人達に会って、歓迎会が開かれて、それで、それで……。

「何してんだ榎本お!!」
「うおっ、やべ。でか鳥が来やがった。逃げるぞ、嬢ちゃん。立てるか?」

 榎本はそう言って雪へと手を伸ばす。向こうからは鬼の形相の大鳥が大股で近づいてきている。
 もう、五月蝿いなぁ。頭に響くでしょう。

「……じょうちゃんじゃない」
< 434 / 492 >

この作品をシェア

pagetop