想いと共に花と散る
 誰が好きで二度もあの部屋に行かなくてはならないのだ。
 
「……無理だよぉ」

 扉に手を掛け、離し、掛け、離す。何度も開けようとするのに、その先にはいつまで経っても進めない。
 何故、雪が再び土方の部屋の前にいるのかというと。

『作戦はこうだ。結城君が見たお琴さんの行動を全て真似をする。君が嫉妬したということは、お琴さんは他人にそう思わせる行動を取る傾向があるということ』
『つまり、甘えるのよー』

 脳内でいい加減な作戦会議の様子が蘇った。誰よりも乗り気なつねに、真剣に作戦を考える大鳥は見ているだけで調子が狂う。
 折角用意してもらったカステラは、作戦を実行するまでお預けとなり、未だ大鳥の部屋で大切に保存されている。
 全てはカステラのため。今はそれだけを考えて扉を開ける。

「それでね、歳三さん」

 ほんの少し、ほんの少しだけ絶好のチャンスだと思った。
 土方と二人きりになれるかもしれない、彼の近くに寄れるかもしれない、そう期待したのに。

「お父様ったら、私に早く相手を見つけろってうるさくって」

 この女ときたら、雪の行く所行く所に現れる性分らしい。
 否、雪が行く所と言うと土方の部屋くらいであり、琴の行く所もまた土方の部屋であるだけのこと。
 こんな共通点、むしろ屈辱的であった。

「私は、自分がお慕いする人と一緒になりたいの」
「……そうか」
「もう、鈍感ってわけじゃないでしょうに」

 琴の手が土方の肩に触れた。土方の耳元に琴の口が近づいた。甘ったるい琴の声が部屋に響いた。
 ミシッと雪が握る扉が音を立てる。怒りが、嫉妬が、腹の底からふつふつと湧き上がった。

「……何、また来たの?」

 塵を見るような目が向けられた。心底邪魔なものを見るような目、目の前の存在を毛嫌いするような目だ。

「歳三さん、貴方のお小姓さんが来ているわよ」
「あ? ……どうした」
「いえ……別に、何でもないです」

 何でもないことねぇだろ、そう言う土方の声など最早耳に入ってこない。
 ただ、今にも引っ付いてしまいそうなほど近づく二人の顔が見ていられなかった。
 あんなに近づいたことはない。あんなに触れたことはない。あんなに名前を呼んだことはない。
 それなのに、琴は慣れたことのように雪の“まだ”を土方に見せていく。
 琴によって土方は知らなくていいことを知ってしまう。本来は雪が教えたいと思っていたことを琴が攫っていった。
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