想いと共に花と散る
 初対面であるはずなのに、やけに親しげに二人は話している。
 つねの物怖じしない社交的な性格のお陰か、それとも横山が元々気さくなのか。

「何か、見ていかれてくださいよ」

 店員としての永井は立ち上がり、店内に並ぶ商品を指しながら微笑んだ。
 雪は誘われるままに店内を見渡す。
 棚には、異国の模様が描かれた小箱、細工の施された金属の留め具、硝子玉、歯車のような形をした小さな器具が並んでいた。

「これは何ですか?」
「香り袋です。中に香料を固めた玉が入っていて、香水のような役割があるんですよ。あとは、気分を落ち着かせる時に使いますね」

 別の香り袋を手に取った永井は、手本を見せるようにそれを鼻先に近づける。
 雪も見様見真似で香り袋を鼻先に近づけた。ふわりと、花のような甘い香りが鼻腔を擽る。

(落ち着く……)

 何十回、何百回と嗅いだことのある香りだ。何処で嗅いだことがあるのかは考えないでおく。
 香り袋を元の場所に戻し、雪は棚を眺めながら、ふと一つの品に目を留めた。
 掌に収まるほどの、小さな懐中時計だ。
 外側は落ち着いた色合いで、派手さはない。しかし、蓋の内側には桜の花びらのような細かな彫りが施されている。
 そっと開くと、微かに規則正しい音がした。

(……土方さんみたい)

 理由は分からない。ただ、無駄がなく、静かで、確かなもの。
 忙しなく動き続けるのに、決して狂わない針。

「気になりますか?」

 永井の声に、雪ははっとして顔を上げた。
 優しく包み込むような、穏やかな永井の視線が降り注ぐ。

「いえ……」
「贈りものにもいいですよ」

 密かに考えていたことを言い当てられて、雪は一瞬戸惑う。けれど、すぐに頷いた。

「物には罪がない。だから、いつだって物だけは裏切りません」

 その言葉に、雪はもう一度手の中の懐中時計に目を落とした。
 無骨で、飾らなくて、純粋で、無垢で、綺麗で、美しい。

「やっぱり……土方さんみたいだ」
 
 この懐中時計を贈り、仕事中にでも蓋を開ける様が想像できる。
 すぐに洋装を着こなしてしまった彼だから、懐中時計も使いこなすだろう。
 思えば、一度も彼に形に残るものを贈ったことはない。彼から贈り物を受けたのも、桜色の結い紐だけだ。

「これ、包んでもらってもいいですか?」
「ええ。もちろんいいですよ」

 喜んでくれるだろうか。
 いや、喜んでくれる。きっと。

「はい、できました。割れ物なんでお気をつけてお持ち帰りください」
「ありがとうございます! つねさん、帰りますよー」
「ええー、もう帰っちゃうのー? 店員さん、また来るわねぇ」
「いつでもお越しください」

 ぱたりと音を立てて扉が閉まり、異国の世界から再び函館の街へと戻っていった。
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