想いと共に花と散る
「父様……っ!? やめ、やめてっ!」
庭中に琴の悲痛な叫びが響いた。その場にいた大鳥達が思わず目を逸らしてしまうほど、それは聞くに耐えないものだ。
何度「歳三さん」と琴に呼ばれても、土方は一言も発さず振り返ることもしなかった。
ただ、雪の傍に膝を着いて手を握るだけ。
守るように。明確に、外敵から線を引くように。
灰が風に舞う。小さな手の中から溢れた灰が、風によって遠くへと飛ばされた。
「……物に、罪はないのに………」
地面に手を着いて雪は声を絞り出した。その手の上には、ぽたり、ぽたりと雫が落ちる。
土方は静かにコートを脱ぎ、震える雪の肩へと掛けた。
「……っ、燃えちゃった……全部、燃えちゃった……っ!」
消えた。燃えた。飛んだ。終わった。
『冬であろうと、俺はもう凍えなくてもいいのだと。首巻きが無くたって、俺に温もりを与えてくれる者がここにはいる。そして、それに気づかせてくれたのは、雪、お前だ』
ううん、寒い、寒いよ斎藤さん。
掌が氷になっちゃったみたいに冷たいの。ヒリヒリと痛くて、感覚もないんだ。
蝦夷に来てからずっと温めてくれていたものが、無くなっちゃった。
『俺が兄貴かぁ。……ははっ、守りてぇもん守れねぇ俺が?』
平助君。お兄ちゃん。ずっと守ってくれていたのに、私は守れなかった。
貴方との思い出を目の前で燃やされちゃったよ。
「しっかりしろ」
「っ……!」
突然強く肩を掴まれ、雪は反射的に顔を上げた。目の前にあるはずの土方の顔が涙で歪んで、皮肉にもこの時だけは直視できる。
「二人きりにしてあげよう」
空気を読んで大鳥が市村達と共に洋館の中へと戻っていく。
すっかり日が昇った正午前であるというのに、辺りは異様なほどに静かだった。
「あいつらといた時間は、物を媒介しねぇと思い出せないようなもんなのか?」
「……ち、ちが、う」
「あいつらは物の中でしか生きてねぇのか?」
「違う、そんなことない……っ」
彼らと過ごした時間は、いつだって何処だって思い出せるくらい鮮明なもの。
ふとした瞬間に思い出し、幸せだったと想いを馳せるもの。
皆、首巻きでもバンダナでもなく、心の中で生き続けている。
「なら、物に縋るんじゃなくて思い出に縋れ。あいつらを勝手に殺すな」
「……っ。はいっ」
「分かったんなら良い」
ただ、縋っていたいだけだった。寂しくならないように自分を守りたいだけだった。
前を向くにはむしろ邪魔なもので、斎藤が手放したように雪にも手放す時が必要だった。
それが今だったと言うだけ。首巻きもバンダナも無くなってしまったが、彼らとの思い出は今でも頭と心に刻まれている。
『そんなに欲しいなら、お揃いでやったのに。いい店知ってたんだぜ?』
『寒ければ、新しい首巻きをやる。だから、それはもう必要ない』
そんな遠い場所に行ってしまった二人の声が聞こえた気がした。