想いと共に花と散る
 どれだけ被害者面をしていようと、これまでの琴の態度から嘘を吐いていることくらいは分かる。

「誰がやった」

 土方は分かっていながらも、確信を得るために低く問うた。
 傍らに立ち尽くすことからの返事はない。代わりに、つねが震える声で言った。

「……琴さんが」

 沈黙が流れた。一瞬の内に空気が凍りつく。
 つねにバラされた琴の顔色は、あっという間に蒼白したものに変わった。

「違いますわ! 私はただ――!」
「黙れ」

 刃のように鋭い一言が、琴の言葉を遮った。
 琴は続きの言葉を言うことすら許されず、息を呑む。
 土方が、ゆっくりと視線を上げた。その目に宿るのは、怒りでも困惑でもない。
 彼女がやったという断定。彼女は自分の、雪の敵であると判断する目。

「……面白半分でやったのなら、覚悟はできているな」

 開いた口から出たのは、脅すでも叱るでもない淡々とした声だった。
 それでも、抑えきれない感情はその言葉にありありと現れている。
 土方がその言葉を言った瞬間、琴の肩が大きく震えた。

「わ、私は……っ、そんな……! あの女が、あの女が悪いのです! いつも大事そうに……見せつけるように……!」

 耳障りな金切り声が庭に響いた。

「私は、ただ壊しただけ! 物でしょう!? 物なんて――……!」

 ぱち、と焚き火が爆ぜる。
 その音に被さるように、別の声が響いた。

「琴!」

 重く、威厳のある声が彼女の言葉を遮った。
 振り向けば、洋館の主である琴の父親、鷹宮が立っていた。
 彼が浮かべる険しい顔は、父親が娘に見せる顔ではない。一家の主の顔だ。

「……父様っ!?」

 琴の声が初めて揺らいだ。何故ここにいるのか、そう言葉にならない戸惑いが声に出ている。
 鷹宮は、ゆっくりと琴に歩み寄った。
 燃え残る灰。取り乱す娘。蹲る雪。そして、雪の前に立つ土方。
 全てを見て、深く息を吐いた。

「……謝れ」

 低い命令が琴に向けて下される。
 その命令には、父親が娘に見せる優しさなど微塵もない。

「……え?」
「今すぐ、謝れと言っている」

 その声には、一切の甘さがない。親として、洋館の主としての責任者の顔をしていた。

「どうして……私は……」
「黙れ!」

 涙を浮かべて困惑する娘を前にしても、鷹宮の表情は変わらない。
 それどころか、どうして謝らなければならないのか分かっていない琴を見て怒りが増幅する。
 鷹宮の怒声が庭を震わせた。

「恥を知れ! 己の嫉心で他人の大切なものを焼くなど、卑劣にも程がある!」

 琴の身体がびくりと震えた。
 可愛い可愛いと可愛がっていた娘であっても、父親であれば諭さなければならない時がある。
 怒りに歪んだ顔で鷹宮は琴に近づき、その細い腕を掴んで引き摺るように庭を出ていく。
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