想いと共に花と散る
 何がしたかった。その言葉に、一体どれだけの苦悩が含まれているのかなど雪には想像もできない。
 独り言のように呟かれた言葉は、決して人前で見せることのなかった鬼の弱さが露見したものだった。

「……全部、言っちゃってください」

 言いたいことがあるなら言えば良い。
 吐き出したいことがあるなら吐き出せば良い。
 言ってやりたいことが、
 言いたかったことが、
 伝えたいことが、
 伝えたかったことがあるなら口にすれば良い。

「ここには私しかいません。私が全部受け止めます」

 ずっと我慢してきたのだ。どんな時も、皆と自分自身を律するために心を鬼にして、我慢してきた。
 だから、神様、この時は許してあげてほしい。鬼である彼が鬼でなくなる瞬間を与えてやってほしい。
 顔を見上げて微笑みを向ければ、土方は奥歯で毒虫を噛み潰したかのように苦々しく表情を歪めた。

「……ただ、武士になりたかっただけだった」

 いつの日か、月が浮かぶ夜空を見上げて昔話に耽った。
 知らなかった彼らの過去を知り、忘れたかった自分の過去を打ち明けた。

「誰も失わずに武士になれるとは思っちゃいねぇ。けど、信じてたもんだけは……失いたくはなかったっ」

 まだ新撰組という組織が幕府に忠誠を誓っていた頃。
 雪が大坂城にいる間、土方は鳥羽伏見の戦いで身を焼いていた。何人もの仲間を失い、離れていった者達を見送った。
 それなのに、命を懸けて戦っていた幕府に裏切られたのだ。
 錦の御旗。赤いその旗よりも先に進めば、賊と見なすと言って。

「なんでだよ……っ。なんで、俺は―――」

 初めて雪から手を握った。否、こうして横に並び手を握ったことなど今まで無かった。

「あの人を置いてきたんだ」

 あちらこちらから聴こえる銃声、怒号、足音。
 揺れる視界に映した父の最期はあまりにも呆気なく。

『二人とも、ありがとう。私にここまで付いて来てくれて』

 一生の呪いとなって縛り付ける言葉を残して。

『最後まで抗え。そして───……生きろ』

 誰よりも誠を信じて、抱えて散っていった徒花になった。
 引き止めることも、連れて行くこともできずに。
 居場所を与えてくれたことの、名前を呼んでくれたことの、父になってくれたことのお礼も言えぬまま。
 目の前で斬首という、武士としてすら死なせてもらえなかった人。
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