冷徹国王の愛娘は本好きの転生幼女~この世の本すべてをインプットできる特別な力で大好きなパパと国を救います!~2

第三章 お散歩のはずだったのですが?

 黒スライムを退治した日を境にテオドルスが忙しくなり、もう二週間以上も朝食を一緒にとることもなく、なんなら顔すら合わせていない。レオンティーヌは寂しくてしかたなかった。眠らず起きてテオドルスの帰りを待っていたこともあるが、何度チャレンジしても途中で眠ってしまうのだ。そして、朝目覚めるとすでにテオドルスはいない。
 そこでレオンティーヌは、夜眠くならない方法を考えた。答えは簡単だ。お昼寝をたっぷりして、カフェインをたらふく飲むという実に簡単な方法である。
 今日は昼食後からすぐにベッドに入り、お昼寝開始。そして、起きたのが夕食前だった。
 よしよし、いい調子だ。次にコーヒーを飲んでみたいと駄々をこねて、用意してもらったのだが、なんとしたことだろう。
 前世ではあれほどコーヒー好きだったのに、苦くて飲めないのだ。テオドルスに会うためだと我慢して、ちょっとずつちょっとずつ流し込んだ。
 その甲(か)斐(い)あって、ベッドに入っても目がギンギンに冴えている。これなら、徹夜でもできるんじゃないか?と、思っていたが、明かりを消されてしまうと次第に眠気が襲ってくる。
 これではダメだとベッドから起き出して、夜の月を見ながらラジオ体操。
「チャーンチャーラチャカチャカ」と鼻歌を歌いつつ第一体操が終わると第二もした。
 でも、テオドルスは帰ってこない。少し疲れたので床に座って柔軟体操を始める。

 誰かに名前を呼ばれ起された。
「レオンティーヌ、大丈夫か?」
 目を開けるとテオドルスが焦っている。
「あ、おとーしゃま、お帰りなしゃい! やっと、会えた!」
 嬉しそうに騒ぐレオンティーヌに対して、テオドルスは「はー」とため息をついた。
「体はどこも痛くないか? なぜ、床に寝ていたのだ?」
 床に寝ていたという言葉で、柔軟体操をしていて、床に座った途端に寝てしまったのだと想像がついた。
「体は大丈夫。床に寝ていたのは、おとーしゃまに会いたくて、寝ないようにベッドから下りていたからなの」
「そんなにも私を待ってくれていたのか……」
 テオドルスはそれ以上何も言わず、レオンティーヌを力強く抱きしめる。抱きしめられたレオンティーヌは、ようやく寂しさが和らいでいくのを感じた。自分では平気だと思っていたが、そうではなかったようだ。
「やっぱりおとーしゃまに会えないのは、ちゅらかったでしゅ」
「寂しい思いをさせて、すまない。だが、もう少しだけ我慢してくれ」
 いつもなら、レオンティーヌにこれほど言われたら、全部投げ打ってでもそばにいてくれるのに、よほど仕事が立て込んでいるのだろう。
「わかりまちた。もうちょっと……もうちょっとだけなら我慢しましゅ」
 レオンティーヌが寂しそうにうつむいた。そんな顔をさせてしまった罪悪感のせいか、テオドルスもつらそうだ。
「では、この仕事を終えたら一緒に何かしよう」
 テオドルスの提案にレオンティーヌは目をまん丸にして喜ぶ。
「えっとえっと、じゃあ、一緒に城下にお出かけとかしたいでしゅ!」
 そのレオンティーヌの言葉にテオドルスがポツリと漏らす。
「そういう手もあったな……」
 テオドルスが急に上機嫌になり、レオンティーヌを『高い高い』しながら約束をしてくれた。
「よし、出かけよう! だから、もう少しだけ待っていてくれ」
「やった! 楽しみに待ってましゅ!」
 楽しみができて満足したレオンティーヌは、ベッドに横になると一瞬で眠ってしまったのだった。

 それから一週間は、政務棟がバタバタしていたが、そのうちレオンティーヌたちが住んでいる住居棟まで皆が忙しそうにし始めて、落ち着かなくなっていく。だが、レオンティーヌはテオドルスが約束してくれたお散歩の日を心待ちにしていたので、あまり気にしていなかった。
 乳母のオルガが「この服も、あの服も!」とレオンティーヌの服を、大きな箱にどんどん詰めているのは気になったが、『衣替えかな?』と思い納得したのだった。
 そうしたある日、住居棟の真ん前に美しい馬車が停車した。細かな彫刻が施してあり、豪華で、どこからどう見ても王族の馬車だとわかる。
「うわー、お姫しゃまの乗る馬車だぁ」
 キラキラ光る馬車にうっとりしていると、ハイメが横に来て笑う。
「おっしゃる通りでございますよ。レオンティーヌ様がお乗りになる馬車ですからね」
「え? わたしが乗っていいの」
 この馬車に乗ってどこに行くのだろう?と思ったところでハッとした。
「これに乗って、おとーしゃまと一緒に城下にお買い物に行くのでしゅね?」
 わくわくしながらそう言うと、レオンティーヌの背後から地を這うような低い声が遮った。
「何をおっしゃっているのです? 陛下と一緒に視察という名のご旅行のための馬車ですよ」
 あまりにも生気のない声にぞわっとして振り向くと、宰相のベルンハルトが青い顔をして立っている。
 生霊?と、見間違うほどにやつれていたので、旅行という言葉を聞き逃してしまう。
「べ、べユンハート宰相しゃま、ど、どうしたのでしゅか? もしやご病気?」
 ベルンハルトは自分の顔に手をやって、力なく首を振った。
「実は……『各地の問題は王宮ではなく、現地に行って確かめればよいではないか』と、陛下が急におっしゃられて、視察の段取りを始められたのです。その間の大量の業務を私どもに割り振られまして……やっとめどがついた、というわけです」
「しょれは、誠に申し訳ごじゃいましぇん」
 城下にお出かけしたいと言ったことが、ここまで行き先が変わり大ごとになるなんて思いもしないだろう。しかし、多少なりとも自分が言った言葉のせいもあるので、レオンティーヌは、申し訳なさを感じた。
「いえ、レオンティーヌ様にはなんの落ち度もございません。しかも陛下も大変熱心に仕事に取り組まれてらして、私に仕事の丸投げも含めてですがね……たまにはよいでしょう。レオンティーヌ様とのご旅行を楽しみにされていましたよ。……私にはなんのご褒美もありませんが……」
 ベルンハルトの恨みがちょいちょい込められた台詞を聞かされたが、今度は旅行という言葉をちゃんと認識した。
「おとーしゃまと旅行……? う、嬉しいでしゅ」
「そうか、嬉しいか!」
 政務棟に泊まり込みで仕事を終わらせたテオドルスが、レオンティーヌを後ろからひょいと抱き上げた。
「おとーしゃまと、この馬車に乗って旅行に行くんでしゅね?」
「ああ、そうだ。荷物を運び終えたら出発しよう」
 その荷物だが、多すぎるのが気になっていた。二泊三日の旅行ではないとわかる。まさか一週間行くのだろうか? ベルンハルトの静かな怒りが怖いので、テオドルスの耳元でこそっと尋ねる。
「旅行は何日の予定でしゅか?」
「ああ。予定では三週間を考えている。だが、楽しければ……いや、状況しだいで視察の日程を延長することも検討している」
 三週間と聞いて、喜びのあまり言葉も出ないレオンティーヌとは裏腹に、ベルンハルトの半ば魂の叫びに近い声が遮った。
「それ以上の延長は無理です!」
「うむ、わかった。善処しよう」
 テオドルスの返事に、誰もが旅行の日程が延びることを覚悟したのだった。
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