冷徹国王の愛娘は本好きの転生幼女~この世の本すべてをインプットできる特別な力で大好きなパパと国を救います!~

第一章 本を……本をくだしゃい

 レオンティーヌは空腹に耐えきれず、誰かに訴えようと声を出す。
「うぎゃぁぁ!」
 空腹を訴えかけたレオンティーヌの言葉は、赤ちゃんの大きな泣き声にかき消された。
 再び声をあげたが、赤ちゃんの泣き声しか聞こえない。レオンティーヌは違和感を覚え、目を開けてみる。
 彼女の深緑の瞳に映ったのは天(てん)蓋(がい)のようなもので、自分が豪華な柵付きのベッドに寝ていることがわかった。
 状況を把握するため慌てて起き上がろうとするが、思うように体が動かない。首を回して周囲に視線を巡らせると、物語にいそうな侍女の姿があった。
「おぎゃっ」
 驚きのあまり、思わず『なんでっ?』と口にしたけれど、レオンティーヌの耳に響いたのは赤ちゃんの声だった。その瞬間、さっきからうるさいと思っていた泣き声の主が自分だったと気づく。
(え? 赤ちゃんになってる? これって夢?)
 ベビーベッドの上で手足をバタバタさせると、手にも脚にも確かな感触がある。レオンティーヌは自分の現状を把握するのに数分かかった。とはいえ、それはレオンティーヌには信じられない現実。考えに考えた結果、自分が転生しているのだという答えにたどり着く。
 ひとり動揺していると、侍女とは別の、三十前後と思(おぼ)しき女性が視界に入ってきた。彼女は泣いているレオンティーヌに静かに駆け寄り、抱き上げた。
「どうしましたか、レオンティーヌ様」
(レオンティーヌ……?)
 レオンティーヌは、自分の名前を認識した。すると、この離宮で暮らし始めた頃以降の記憶が頭の中にどっと流れ込んできた。
 記憶がよみがえると、周囲の状況も把握できた。今レオンティーヌを抱いているのが乳母のオルガで、そばにいるのが侍女のミーナだ。
「あらあら、ご機嫌斜めですか?」
「おぎゃあ」
 この状況を説明しようにも、泣き声にしかならない。レオンティーヌは言葉が伝わらないつらさを痛感した。
「具合が悪いのかしら?」
 ミーナが心配そうに言い、オルガと共に、今にも大騒ぎしそうな雰囲気だ。
(うおお! どうしよう? どうしたらいい? 二人に騒がれてこれ以上大ごとになったら、
 ますます混乱するわ。この場を収めるには空気を変えるしかない!)
 レオンティーヌは気持ちを切り替え、いつものように愛嬌(あいきょう)を振りまき、元気だよとアピールするように、わざわざ彼女たちに笑ってみせる。
「うきゃっきゃー」
「ああ、よかった。やっと笑顔のレオンティーヌ様になったわ」
 そう、レオンティーヌは、敬称で『様』をつけられて呼ばれる身分なのだ。

 レオンティーヌの父親は、エールトマンス国の王、テオドルス・エールトマンスである。
 母のライラはレオンティーヌを生んで三か月の時に、亡くなってしまった。国王の大(おお)叔母(おば)が主催したお茶会に侵入した魔獣に襲われて、その時の傷が元で、急逝したのだ。
 ライラが亡くなってから、父であるテオドルスはレオンティーヌを遠ざけて、彼女が住む離宮には来ていない。なぜ彼が、いまだ娘を放置しているのか、レオンティーヌにはわからない。ただ、強いていえば思い当たることが一つある。
 それは、レオンティーヌの誕生の日に起きた出来事だ。
 そもそも、王族の血を引く者は生まれ落ちたその時から、王族の証(あかし)である王紋と、魔力の属性を表す模様が隣り合って、体のどこかにくっきりと現れているのが普通なのだ。だが、レオンティーヌの右の前腕に現れていた王族の証である王紋は今にも消えそうに薄く、その上、魔力の属性の模様は誰も見たことのないものだった。火属性なら炎の模様、緑属性なら葉の模様。しかし、レオンティーヌの模様は、二つの正方形が角度を変えて重なった八芒(はちぼう)星(せい)と、その右側に頂点が左に向いている小さな三角形があるというものだった。それが何を表しているのか、またそもそも、属性を表すものかどうかもわからなかったのだ。誕生直後、王紋が薄く、属性があるかないかも特定できないことから、王族の資格がないのではと騒がれた。
 周囲の憶測を一蹴するかのように、すぐに、テオドルスがレオンティーヌを正当な王族の後継者として公式に声明した。
 しかし、その後も口さがない者は、『お印薄く、無属性』や、『王族には不適格』など陰口を言っていたのである。それがライラの死後、さらに急増した。
 そんな経緯があり、レオンティーヌはこの離宮で暮らすことになった。彼女にはテオドルスの本意はいまだわからないままだ。いずれにしても、国王から放置され、王紋が薄く無属性とあっては、レオンティーヌを取り巻く環境としては、かなり厳しい状態である。
 しかし、そんな状況下でも乳母をはじめ、侍女五人、料理人二人が結束を固め、レオンティーヌを冷遇せず、大事に育てているのだ。だが、やはり国王や、世間の風潮に気遣ってか、離宮は常にひっそりしていた。
 レオンティーヌが眠ったふりをするとミーナたちは掃除を行い、オルガは王女から少し離れたところでゆっくりと編み物を始める。
 彼女らがそばを離れると、レオンティーヌは自分の前世について思い返してみた──。
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