冷徹国王の愛娘は本好きの転生幼女~この世の本すべてをインプットできる特別な力で大好きなパパと国を救います!~
カイゼル邸に着くとオリーブは、表向きはライラを歓待した。テラスにあるテーブルに案内し、着席を促す。ライラが席に着くと、早速異国の変わった食べ物をテーブルに出してきた。
異国の果物だというが、とてもフルーティーとはいえない、ただ独特な甘ったるい匂いが溢れ出ていた。しかも、スプーンやフォークでは食べられそうにない、硬い甲羅のような皮で覆われている。
訳のわからない食べ物を前にライラは困っていた。それを見たオリーブが嬉しそうな顔で「どうぞ」と勧める。
どう見ても、硬い皮は食べることもできなそうな果物で、手で割っていいのかもわからない。
「どうしたの? 食べないの? あなたのために遠い異国の地からわざわざ取り寄せたというのに」
戸惑うライラにオリーブは怪訝そうな顔をして言うと目を細める。
そして、そばにいた自分の侍女に目配せをする。
「わからないようだから、切ってさしあげますね」
侍女は甘ったるい香りのする果物を真二つに切ってさらに、その果物を握りつぶして皿に放り投げた。
果物の汁が飛び散ると辺りにその強い香りが充満する。
「このように握りつぶした食べ物を出すなんて! ライラ様にお召し上がりいただくわけにはいきません!」
ライラの侍女が抗議するが、オリーブは知らぬ存ぜぬ我関せずだ。しかし、ここで誰も予想しなかったことが起きてしまった。
「キューーーイ!」
耳が痛くなるような甲高い鳴き声が聞こえ、皆が声のする方を見上げた。すると、甘い匂いに誘われたのか、瑠璃色の魔鳥が、二十羽ほど先を争うようにテーブルに飛んできて、オリーブやライラに向かって襲いかかったのだ。
その時に一羽の鉤(かぎ)爪(つめ)がライラの腕を傷つけた。一緒にいたオリーブも顔に大怪我を負う。
護衛たちが急ぎ女性たちを屋敷内に連れ込むが、魔鳥らしきその鳥が果物を食べて、屋敷から飛び立つまで医師を呼ぶこともできずに待つしかなかった。
やがて、瑠璃色の魔鳥は果物がなくなるとあっさり飛び去っていった。
ライラの腕の傷は帰る頃には紫色に腫れ上がっていたのだ。
王宮に帰り着いたライラは侍女に連れられて寝室に直行した。
その後発熱し、夕刻には高熱となり、あっという間にライラは起き上がれないほど衰弱してしまった。
◇□ ◇□
テオドルスは国中の医者という医者を呼び集め、原因究明と治療を試みたが、一向に治ることもなく、ライラはどんどんと衰弱していった。
この時に初めて、テオドルスは自分の大伯母が、ライラをお茶会と言って誘い出しては、いじめていたことを知ったのだ。そんなことになっていると知らなかったとはいえ、送り出していた自分を責めた。
ライラはテオドルスの親戚のことで心配をさせたくないと黙っていたのだ。この優しい妻をなんとしても救いたい。
テオドルスが必死で治療法を探すも、見つからず、とうとうその時はきてしまった。ライラが彼を見て微笑むことは永遠になくなってしまったのだ。
悲しみに暮れるテオドルスにとって、ライラによく似たレオンティーヌを見るのがつらかった。ライラを守れなかった負い目。治療法すら見つけられなかった悔しさ。すべて自分が不甲斐ないせいだと、自分を責める日々。そして、娘から母を奪ったのは自分なのだと、レオンティーヌの姿を見ることが怖く、つらくなっていったのだ。また、自分のそばにいればこの子に不幸なことが起こるのではと、よくないことばかり想像してしまう。
ライラを失ってから、テオドルスはまるで自分を追い込むように仕事にのめり込み、さらには戦の最前線にも向かうようになる。
その姿はまるで魔王のようだと敵味方関係なく恐れられ、さらに血まみれのまま馬上に姿を見せて凱(がい)旋(せん)するので、子供や女性には特に怖がられるようになってしまった。
王宮に帰ってきても、テオドルスはレオンティーヌを避け続け、離宮にも行かなくなったため、レオンティーヌが物心がついた時には、父の顔も知らず育っていた。
オルガや侍女たちは、なんとかテオドルスに離宮に来てもらおうと、レオンティーヌの成長をたびたび報告しに執務室を訪れたが、まるで税務報告を聞くように無表情なのだ。
しかし、レオンティーヌに興味がなかったわけではない。むしろその反対だった。レオンティーヌの成長の報告の間中、テオドルスは祈るような気持ちで、聞いていたのだ。オルガの口から、レオンティーヌが病気になった、または怪我をしたと発せられるのではないかと気が気でなかったのである。
レオンティーヌのことを聞けるこの機会は、テオドルスにとって楽しみであり、恐怖の時間でもあった。だが、いつも険しい表情でレオンティーヌのことを聞くテオドルスの心情を誰が理解できようか。
そのうちオルガもミーナも諦め、誰もレオンティーヌの成長ぶりを報告しに来なくなってしまい、テオドルスは我が子の寝返りやハイハイ、立ったことすら全く知らずにいるという、不自然な事態に陥ったのだった。
笑い声の絶えなかった離宮は、ひっそりとしてしまった。
たまに聞こえるレオンティーヌの泣き声さえも、周囲に聞かれてはならないものとして、オルガやミーナは細心の注意を払っているようだった。
彼女たちを含め、離宮で働く者たち自身も声を落として、さらに静かに生活するようになっていく。
◇□ ◇□
再び活気を取り戻し始めたのは、レオンティーヌが、おしゃべりができるようになった頃からだ。
レオンティーヌは、普通の赤ちゃんよりも泣くことが少なかった。
だが、言葉を話せるようになると、どこでそんな言葉を覚えてきたのだと不思議なくらい、語(ご)彙(い)が豊富でおしゃまな女の子になっていった。そうなると、再び離宮は、笑い声やたまに乳母がレオンティーヌを叱る声もあったが、明るさを取り戻していく。
母を知らない、さらに父も知らない王女に、乳母や侍女たちは、家族のように接し、時には厳しく、時には甘やかし、離宮にいるすべての人が温かく、レオンティーヌを見守っていた。
そのおかげで、レオンティーヌ自身も寂しさなどとは無縁で、すくすく育ったのだった。
異国の果物だというが、とてもフルーティーとはいえない、ただ独特な甘ったるい匂いが溢れ出ていた。しかも、スプーンやフォークでは食べられそうにない、硬い甲羅のような皮で覆われている。
訳のわからない食べ物を前にライラは困っていた。それを見たオリーブが嬉しそうな顔で「どうぞ」と勧める。
どう見ても、硬い皮は食べることもできなそうな果物で、手で割っていいのかもわからない。
「どうしたの? 食べないの? あなたのために遠い異国の地からわざわざ取り寄せたというのに」
戸惑うライラにオリーブは怪訝そうな顔をして言うと目を細める。
そして、そばにいた自分の侍女に目配せをする。
「わからないようだから、切ってさしあげますね」
侍女は甘ったるい香りのする果物を真二つに切ってさらに、その果物を握りつぶして皿に放り投げた。
果物の汁が飛び散ると辺りにその強い香りが充満する。
「このように握りつぶした食べ物を出すなんて! ライラ様にお召し上がりいただくわけにはいきません!」
ライラの侍女が抗議するが、オリーブは知らぬ存ぜぬ我関せずだ。しかし、ここで誰も予想しなかったことが起きてしまった。
「キューーーイ!」
耳が痛くなるような甲高い鳴き声が聞こえ、皆が声のする方を見上げた。すると、甘い匂いに誘われたのか、瑠璃色の魔鳥が、二十羽ほど先を争うようにテーブルに飛んできて、オリーブやライラに向かって襲いかかったのだ。
その時に一羽の鉤(かぎ)爪(つめ)がライラの腕を傷つけた。一緒にいたオリーブも顔に大怪我を負う。
護衛たちが急ぎ女性たちを屋敷内に連れ込むが、魔鳥らしきその鳥が果物を食べて、屋敷から飛び立つまで医師を呼ぶこともできずに待つしかなかった。
やがて、瑠璃色の魔鳥は果物がなくなるとあっさり飛び去っていった。
ライラの腕の傷は帰る頃には紫色に腫れ上がっていたのだ。
王宮に帰り着いたライラは侍女に連れられて寝室に直行した。
その後発熱し、夕刻には高熱となり、あっという間にライラは起き上がれないほど衰弱してしまった。
◇□ ◇□
テオドルスは国中の医者という医者を呼び集め、原因究明と治療を試みたが、一向に治ることもなく、ライラはどんどんと衰弱していった。
この時に初めて、テオドルスは自分の大伯母が、ライラをお茶会と言って誘い出しては、いじめていたことを知ったのだ。そんなことになっていると知らなかったとはいえ、送り出していた自分を責めた。
ライラはテオドルスの親戚のことで心配をさせたくないと黙っていたのだ。この優しい妻をなんとしても救いたい。
テオドルスが必死で治療法を探すも、見つからず、とうとうその時はきてしまった。ライラが彼を見て微笑むことは永遠になくなってしまったのだ。
悲しみに暮れるテオドルスにとって、ライラによく似たレオンティーヌを見るのがつらかった。ライラを守れなかった負い目。治療法すら見つけられなかった悔しさ。すべて自分が不甲斐ないせいだと、自分を責める日々。そして、娘から母を奪ったのは自分なのだと、レオンティーヌの姿を見ることが怖く、つらくなっていったのだ。また、自分のそばにいればこの子に不幸なことが起こるのではと、よくないことばかり想像してしまう。
ライラを失ってから、テオドルスはまるで自分を追い込むように仕事にのめり込み、さらには戦の最前線にも向かうようになる。
その姿はまるで魔王のようだと敵味方関係なく恐れられ、さらに血まみれのまま馬上に姿を見せて凱(がい)旋(せん)するので、子供や女性には特に怖がられるようになってしまった。
王宮に帰ってきても、テオドルスはレオンティーヌを避け続け、離宮にも行かなくなったため、レオンティーヌが物心がついた時には、父の顔も知らず育っていた。
オルガや侍女たちは、なんとかテオドルスに離宮に来てもらおうと、レオンティーヌの成長をたびたび報告しに執務室を訪れたが、まるで税務報告を聞くように無表情なのだ。
しかし、レオンティーヌに興味がなかったわけではない。むしろその反対だった。レオンティーヌの成長の報告の間中、テオドルスは祈るような気持ちで、聞いていたのだ。オルガの口から、レオンティーヌが病気になった、または怪我をしたと発せられるのではないかと気が気でなかったのである。
レオンティーヌのことを聞けるこの機会は、テオドルスにとって楽しみであり、恐怖の時間でもあった。だが、いつも険しい表情でレオンティーヌのことを聞くテオドルスの心情を誰が理解できようか。
そのうちオルガもミーナも諦め、誰もレオンティーヌの成長ぶりを報告しに来なくなってしまい、テオドルスは我が子の寝返りやハイハイ、立ったことすら全く知らずにいるという、不自然な事態に陥ったのだった。
笑い声の絶えなかった離宮は、ひっそりとしてしまった。
たまに聞こえるレオンティーヌの泣き声さえも、周囲に聞かれてはならないものとして、オルガやミーナは細心の注意を払っているようだった。
彼女たちを含め、離宮で働く者たち自身も声を落として、さらに静かに生活するようになっていく。
◇□ ◇□
再び活気を取り戻し始めたのは、レオンティーヌが、おしゃべりができるようになった頃からだ。
レオンティーヌは、普通の赤ちゃんよりも泣くことが少なかった。
だが、言葉を話せるようになると、どこでそんな言葉を覚えてきたのだと不思議なくらい、語(ご)彙(い)が豊富でおしゃまな女の子になっていった。そうなると、再び離宮は、笑い声やたまに乳母がレオンティーヌを叱る声もあったが、明るさを取り戻していく。
母を知らない、さらに父も知らない王女に、乳母や侍女たちは、家族のように接し、時には厳しく、時には甘やかし、離宮にいるすべての人が温かく、レオンティーヌを見守っていた。
そのおかげで、レオンティーヌ自身も寂しさなどとは無縁で、すくすく育ったのだった。

