白い結婚2年目に白ネコになったら、冷血王と噂の旦那様との溺愛生活がはじまりました
5回裏 sideヴァレンス


 茂みの向こうから白猫ユリアの声が聞こえた。
 彼女の身に何かが起こったのだと、ヴァレンスは慌てて駆け出そうとする。
 すると――。

「待たないか」

 声に制止されるがまま、その場から動けなくなった。
 足下には蒼い魔術陣が浮かび、ヴァレンスの周囲を何本もの光の柱が取り囲んだ。

「師匠! 何のつもりですか!?」

「話の途中だ」

「そんなことはどうでも良い!」

「お前の妻の今後についてだ。それでもどうでも良いと?」

「――今現在のユリアの危機が先だ!!」

 ヴァレンスが叫ぶと――周囲の柱がバラバラと砕けて消える。

「ユリア――待っていろ!!」

 そうして、ヴァレンスは茂みの中へと駆けていくのだった。



***



 その場に残された、ヴァレンスの師はポツリと呟いた。


「――当代のセルツェ王国の若き冷血王には魔力が()()――か」


 ――性別不詳の人物は、ヴァレンスと出会った頃のことを思い出した。

 魔力がないと言われていた少年のそばには、飼い猫である白猫以外に、神出鬼没な黒猫の存在がいた。

 魔力持ちだと気味が悪がられるからか――子どもなりの無意識な処世術だろうか――。

 ――ヴァレンスは自身の魔力を身体の外に持ち、「黒猫」として具象化していたのだった。

 普通の人間ではそのようなことは出来ない。

 だけれど――。


「……当の本人が、王国一の魔力の持ち主だと気づいていないのだからな……」

 
 魔術師は続ける。


「まあ、今世では幸せにしてやると良い……ずっと慈しんできた白猫を……」


 そうして――光の中へと彼は溶けて消えたのだった。



***


 
 一方、無事に白猫ユリアを助けたヴァレンスは、眠る白猫ユリアを連れて歩いていた。

「幸せそうだな……」

 自身の腕の中でゆっくりと眠りにつく白猫の姿を見て、普段は強面の美青年は穏やかな笑みを浮かべた。

(さっきは咄嗟に身体が動いてしまったな……)

 見回すが、師の姿はもうなかった。

(師匠は時々謎かけのようなことを言ってくるが……)

 ――ずっと自分の近くにいた黒猫は、具象化したヴァレンスの一部だということまで理解はした。

(しかし……この間の夢といい……俺自身の半身である黒猫といい……)

 彼はガックリと肩を落とす。

(自分自身がものすごく欲求不満なのだと分かった)

 ――ユリアからの愛に飢えた獣のようなものだ。

(咄嗟だったし、うっかりユリアに黒猫の正体を告げてしまったが……ユリアに気持ちが悪いと思われたかもしれない……)

 ヴァレンスの表情がさっと青くなった。

(落ち着け、まだユリア本人から気持ちが悪いと言われたわけではない)

 意図せぬ予期不安に襲われている場合ではないと、ヴァレンスは自身に言い聞かせた。

(すぐに考え込みすぎてしまうのが悪い癖だ……とにかく……覚悟を決めて、ユリアの口から真実を聞かなければならない……)

 そんなことを思いながら――王妃の部屋へと辿り着いた彼は、眠りに就いている人間ユリアの元へと向かう。

 人間のユリアと白猫のユリアは共鳴しているのか、ゆらゆらと揺れ動き始めた。

「魔力の干渉か……そろそろ時間がないな……」

 ヴァレンスはごくりと唾を飲み込んだ。
 大好きな妻が眠っているのだ……。
 今まではガラス細工のようなきめ細かな肌を持つユリアにとって、自分などたいした存在ではないと思っているのかもしれないが……。

 ――ヴァレンスは眠る人間と白猫のユリアに向かって声をかける。

 そうして、彼は眠る彼女の髪をさらりとかきあげた。

 相手が聞いていないことを良いことに――いいや聞いていないからこそ、本心が勝手に口を吐いて出てくる。


「お前と本当の夫婦になりたい……ユリアの想いをぜひ教えてほしい」


 そう言うと――。

 ――ヴァレンスはユリアの唇へと自身のそれを、そっと重ね合わせる。

 すると――。

 周囲が発光に包みこまれはじめたのだった。
 



< 10 / 12 >

この作品をシェア

pagetop