キスしたら回帰前の記憶が戻りました

メイリリー

ウェイトレスについていくと、城下町の向こう側にある道までよく見える、広いテラス席に案内された。

 メニュー表と睨み合いをして、シーブリーム()のマリネと、ムール貝たっぷりのパエリア、それからグレープジュースを頼んだ。

 行き交う人々を横目で見ながら、私は家の内装について考える。

 ロッキングチェアにクッションを置いて、ひざ掛けと暖炉で暖まりながら、ゆったりと刺繍ができたら最高ね。

 机に綺麗な花を、ガラスの可愛らしい花瓶に飾って、それを見て癒されながらご飯を食べるの。

 窓辺に木の実を置いておいて、小動物に分け与えるのもいいわ。

「お待たせいたしました……グレープジュースと、シーブリームのマリネでございます。」

 まず置かれたのは、濃厚な香りを放つグレープジュース。

 グラスから落ちる影は、まるでルベライトのように、日光に照らされてキラキラと輝いている。

 そして、目の前に置かれたのは、トマトとベリーリーフと一緒に盛り付けられた、シーブリームのマリネ。

 ウェイトレスにお礼を言ってから、まずグレープジュースを一口。

 甘酸っぱい葡萄の味が口いっぱいに広がって、飲み込むのがもったいないと感じるほどに美味しい。

 余韻を堪能してから、シーブリームマリネに手をつける。

 ベリーリーフとシーブリームをフォークで刺して、口に入れ咀嚼する。

 シーブリームは弾むようなコリコリとした食感で、ベリーリーフの優しい味がそれを引き立てている。

 次は、トマトとシーブリームを一緒に食べてみる。

 トマトのプチプチとした食感に、シーブリームの食感が合わさって、まるで口内でピアノを弾いているかのように感じた。

 淡白なシーブリームの味が、酢の美味しさも引き立てていて、それぞれが歯車のように噛み合っている。

 東洋の国の一部では『タイ』と呼ばれているって聞いたことがあるわ。

 この魚は皮が赤と白で、祝福の意味があるみたい。

 私の門出を祝う、ということで、なんだかいい住処を見つけられそうな気がしてきたわ。

 マリネをとことん味わっていると、ウェイトレスがこちらの席へ向かってくるのが視界の端に見えた。

「お待たせいたしました、こちらムール貝たっぷりのパエリアでございます。」

 机に置かれた瞬間、とてもいい匂いを放っているパエリアに食欲が刺激された。

 たくさんのムール貝が均一に並び、日光に照らされて黒曜石のように輝いている。

 ムール貝と共に並べられたイカや海老によって、黄色いお米が華やかに彩られていて、宝石をつけているみたいに魅力的だわ。

 早速、ムール貝にフォークを持っていく。

 食べやすいように貝と殻が外されていて、一回刺すだけですんなり取れた。

 貝を口に運ぶと、潮の香りとぷりっとした歯ごたえを感じた。

 不思議な味だけど、スパイスと合わさってとても美味しいわ。

 次に、ナイフとフォークでイカを切って、お米と一緒に口に運ぶ。

 独特な風味が鼻を抜けて、イカの甘い味が広がって……

 美味しいわ!確か、この風味はサフランというスパイスのものなんだっけ……?

 人を選ぶ風味だけれど、私は好きだわ。

 その後もパエリアとマリネの味を楽しんで、景色を見ながらゆっくりグレープジュースを飲んで、会計をして店を出た。

◇◇◇

 
 私はひたすら西へ歩いていた、すると藁をたくさん乗せた馬車が通りかかった。

 藁の上に乗っていたおじいさんは、目的地が一緒だということで私も乗せてくれた。

 馬車の後ろにスペースを作ってもらって、私はそこに座りおじいさんと世間話をする。

 色々と情報を集めなければならないから。

「へえ、クルドラから来たのか。」

「はい、色々ありまして。」

 そんな中身のない会話を交わしつつ、だんだん緑が豊かになっていく景色に胸を弾ませていた。

「お嬢さん、いいところの令嬢さんに見えるが……」

「ふふ、秘密です。」

「はっはっ、それもそうか……お、見えてきたぞ。」

 穏やかな丘を登り終えて、馬車から降りて辺りを見渡した。

 すると、遠くに小さな町があるのを発見した。

「わあ……素敵な町。」

「そうじゃろう、領主様も優しい方でな……」
 
「……領主にはすぐに会えるのかしら。」
 
 おじいさんは少し考えていたのか、間を空けてからこう答えた。

「条件次第ではすぐに謁見できると思うが……町には何用で来たんだい?」

「エセリア領の静かな場所に住みたいと思いまして。」

「ほう……それならすぐにでもお会いできるだろう。」

「そうですか、教えてくださってありがとう。」

 私は一安心して息を吐く。

(おじいさんには、あとで謝礼を渡さないとね。)

 そう思いながら再び馬車の後ろに座って、町まで送ってもらったのだった。 

◇◇◇

 町へ無事にたどり着き、おじいさんに銀貨を三枚渡してから別れた。

『こんなに受け取れない』と言っていたけれど、私にとっては小さな出費なので何も問題はない。

「さて……エセリアの領主に会いに行かないとね。」

 私は町の様子を見て回りながら、少し先に見える大きな建物、男爵邸を目指して歩いていく。

 しかし、あるところで思わず足を止めた。

「大丈夫?どこか痛いの?」

「うう……」

 道端でうずくまる女の子を見つけて、駆け寄って声をかけた。しかし、低く唸るだけで返答は返ってこない。

(病気……いや、違う。この症状を私は知っているわ。)

 回帰前のこと、レーリエで大量の死人が出たことがあった。新聞で読んだのを覚えている。

 その原因とは、植物による中毒症状だったのだ。

 メイリリー。白く小さな花をつける、とても美しく可憐な花である。 
 
 しかし、見た目に反して毒を持っており、それが解明されるまでに時間を要していた。

 嘔吐、幻覚、精神錯乱……心臓麻痺。

 さまざまな症状が出た後、死に至る人が多かった。

 触るだけでも十分危険であり、とても少ない摂取量でも致死量になる。

 また、メイリリーにつく赤い実も毒であり、食べたりしたら中毒症状が出るのは必然的だ。

「白色の花を触った?それか、赤い実を食べたりした?」

「実を……食べ、ちゃった……」

「急いで近くの休める場所に……!」

 私は鞄から手袋を出して装着し、女の子を抱き上げて受け入れてもらえるところを探し走り続けた。

 しかし、メイリリーの中毒症状は感染症だと思われていたようで、どこも受け入れてはくれずに門前払いされてしまった。

(……おそらく、男爵邸へ行くしか希望はない。)

 そう判断した私は、男爵邸へと急ぐ。こうしている間にも、女の子の息はどんどん浅くなっている。

 疲れていても、限界でも、走るのよ。見殺しになんてできないわ。 
 
 そうして、やっとの思いで男爵邸の門を開けて敷地内へ入った。

「助けてください、お願いします!!」

 扉をノックして、私は人が来るまで叫び続けた。

 すると、一人の執事が扉を開けて出てきてくれた。

「どなたですか?その子は……」

「お願いします、休める場所を貸していただけませんか。」

「……少々お待ちを。」

 私がそう訴えると、執事は急いでエセリア男爵に私達のことを知らせに行った。

 
 
 
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