キスしたら回帰前の記憶が戻りました

手紙と換金


 まばゆい朝日に照らされて目を開ける。

 国境を無事に越えたようで、祖国であるクルドラとは全く違う景色に、窓を開けて深呼吸した。

 (山がたくさん……空気は……ちょっと煙臭いわね。)

 暫く景色を堪能してから、窓を閉めて鞄を漁る。

 取り出したのは、レターセットとペン、瓶に入ったインク。

 お父様に手紙を出さないと、きっと行方不明届を出して大騒ぎになるから。

 鞄を下敷きにして、ペンにインクを付けて紙に走らせる。

 カレミアと別れたこと、大公女への不敬を働いたこと、処分はお父様に任せるということ。

 あとは、旅をするから、暫く戻らないこと。

 といっても、レーリエに長くお世話になると思うけど。

 旅と書いたほうが、居場所が知られにくいと考えたのだ。

 次期大公はお兄様だから、私が旅をしたって何も問題ないはず……おそらく。

 最後に、お父様とお兄様に、愛してると綴って……

 よし、手紙が書き終わったから、郵便屋で机を借りて封をすれば完成ね。

 手紙を大切に鞄にしまって、ふと窓の外を見やる。

 すると、前方に大きな建物が見えた。

 レーリエの宮廷だ、昔一度だけ行ったことがある。

 あまり覚えてないけれど、小さな女の子に会ったのはおぼろげながら記憶にある。

 彫刻のように完璧な美貌をもつ、静かな女の子。

 ドレスを着た人の後ろに隠れていた。

 今思えば、宮廷に偶然来ていた、どこかの貴族だったのかもしれない。

 昔の記憶に耽っていると、汽車がゆっくりになっていくのが分かった。

 ブレーキ音が響いて、汽笛が一回鳴った。

 ついに、到着したんだわ!

 私は鞄を持って、汽車の扉から外に一歩踏み出した。

 レーリエの駅は、クルドラの駅とはまた違う雰囲気をまとっている。

 クルドラは赤レンガが主体の駅だったから、温かみがあった。

 一方、レーリエは白を基調としていて、凛としつつ柔らかさや豪華さがある。

 駅の出入口までゆっくり歩いて、駅員に切符を見せてゲートを通り抜ける。

 目の前には、大きな建物がずらり。

 ドレスの売っているブティックや、人だかりのある人気そうなレストランが並んでいた。

(クルドラも栄えている国だけど……国が違うだけでこんなにドキドキするなんて!)

 さてと、まずは手紙を出して、宝石を換金しないとだわ。

 私は郵便屋を探しつつ、色々な店を見ながら歩いていく。

 少し進んだ所で、手紙をかたどった看板がぶら下がっているのが見えた。

 運がいいわ、すぐ郵便屋を見つけられた。

 私は早速中に入って、受付の職員に話しかけた。

「ここで封をさせてもらえるかしら。」

「はい、あちらの机にろうそくがございます。」

 お礼を言ってから、ろうそくがある隅の方の机に向かう。

 鞄から小さな蝋とスタンプ、専用のスプーンに手紙を取り出して、準備は完了。

 スプーンに小さな蝋をのせて、ろうそくの火で温めていく。

 ドロドロと溶けて、液体状になったら、手紙の上に垂らしてスタンプで力強く押さえる。

 ゆっくりスタンプを離すと、綺麗な月桂樹の模様が浮き出た。

 封蝋が冷めたのを確認してから、道具をしまって受付へと戻った。

「お手紙ですね、どこまでお届けいたしましょう。」

「クルドラ王国までお願いできる?」

「はい、どなた宛でしょうか。」

「お父さ……ミルディア大公まで。」

 貴族同士での手紙のやりとりは、雇った飛脚や使用人に手紙を持たせて送らせることが多い。

 もちろん、中身を絶対に見られたくないからこそのやり方である。

 貴族同士には、秘密裏に情報交換することもあるし、手紙で牽制、脅迫、借金の請求等、何でもありだ。

 郵便屋を使うのは、貴族の半数ほどだろう。

 この手紙はお父様宛だし、特別な意味はないんだけどね。

 回帰前、私のことが気に食わなかった令嬢から、大量に手紙(脅迫)が送られてきたことを思い出しちゃったわ。

「かしこまりました……クルドラ王国までですので、銀貨一枚になります。」

 硬貨の入った袋を開けて、中身を見た。

 しかし、銀貨ではなく金貨一枚しかなかった。

 銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚だから……

「金貨でもいいかしら、銀貨九枚と交換できる?」

「か、かしこまりました。」

 受付の人は奥の部屋に急いで入っていって、ドタバタと戻ってきた。

「こちら、銀貨九枚です。」

「ありがとう、お勤めご苦労様。」

「またのお越しをお待ちしております。」

 扉についた鐘を鳴らしながら、私は外に出た。

 次は……持ってきた宝石を換金しなくちゃ。

 この辺りを散策しつつ、暫く銀行を探していると、遠くの方に硬貨をかたどった看板が見えた。

 立派な建物ね……硬貨を扱うから厳重に警備もされている。

 大柄で強面な警備員が四人、中々の迫力があるわ。

 一度深呼吸をしてから、警備員の横を通り過ぎる。

 扉を開けて中に入り、受付に声をかけた。

 換金をしたい旨を伝えると、奥から鑑定人が一人出てきた。

「あちらの部屋で鑑定いたします、どうぞ。」

「わかりましたわ。」

 鑑定人に案内されて、別室に移動して椅子に座った。

「さて、何を換金したいのですか?」

「これです。」

 鞄から宝石の入った袋を取り出して、机に置いて鑑定人の前に差し出した。

「これは……宝石。」

「はい、これを全て換金したいのですけれど……」

「少々お待ちいただけますか?」

「はい。」

 鑑定人が宝石の価値を判断しているのを、暫くの間見つめていた。

 住むなら郊外がいいわね、誰にも邪魔されずに農業をして、刺繍で少しづつお金を稼いで……

 森で野苺を摘んで、ジャムを売るのもよさそう。

 小麦の香るパンに、野苺の酸っぱいジャムをたっぷり付けて……

 なんだかお腹が空いたわ。

 昨日のソーセージのパン以来、何も食べていないものね。

 換金が済んだら、どこかの出店で食べ物を買おう。

「……はい、鑑定が終わりました。」

「ありがとうございます、どのくらい換金できそうです?」

「金貨十枚ですね。」

 金貨十枚……本物の宝石だから、それくらいは当然ね。

「じゃあ、金貨十枚に換金してくださる?」

「かしこまりました、ご用意いたしますね。」

 そう言って鑑定人は部屋を出ていき、数分後に袋を持って戻ってきた。

「こちら、金貨十枚でございます。お確かめください。」

「……うん、ピッタリね。」

「またのご利用をお待ちしております。」

 鑑定人に見送られながら、私は出入口まで向かい扉を開けた。

 それにしてもお腹が空いたわ、銀貨が九枚あるから、どこかのレストランで何か食べようかしら。

 そういえば……さっき通った道に、魚介類を使った料理を出している店があった。

 レーリエは海に面しているだけあって、漁業が盛んに行われている。

 きっと、新鮮で美味なシーフードが食べられるわ。

 そうと決まれば、早速店へ向かわなくちゃ。

 酸っぱいマリネ……熱々のパエリア……ほろほろのムニエル……

 料理のことを考えながら街道を歩いていると、ドレスを着ていたり、宝石をつけている人がとても多いことに気づいた。

 逆に、庶民のような服装をしている人はほとんどいない。

 この辺りは財力のある人々が住んでいるエリアなのかもしれないわね。

 ブティックに飾られた服は豪華なものばかりだし、駅もある。

 それに、道も全て綺麗に整えられている。

 皇室が直々に治めている場所だから、手を抜かずに街を作り上げたのかしら。

 ならば、皇室ではなく領主が治めている地域に行ったほうがよさそう。

 一人で暮らすから、丘の上の小さな小屋で十分だから、豪華な城下町よりも、辺境の領地に行ったほうが求めている物件があるかもしれない。

 ……あら危ない、レストランを通り過ぎる所だったわ。

 扉を開けると、扉についていた鐘がチリンと鳴って、ウェイトレスがこちらに来た。

「いらっしゃいませ、一名様ですね。」

「ええ。」

「こちらへどうぞ。」

 
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