ようこそ、霞が関へ
無事、教室に戻ってきた一行。
「東京にいたいぃぃぃ!!霞が関のサクラ大通りが恋しいよぉぉぉ」
うだうだと泣き叫ぶのは文化庁。京都に移転が決まってから毎日のように泣き叫んでる。
「京都も住めば都かもしれないじゃん?大丈夫だってー!それに、もう京都移転されたじゃん」
文化庁は2023年に京都に移転され、今は東京と京都の二拠点体勢で動いている。
「いや、京都は実際に都やったからな。鴨川の等間隔のカップルに混ざる勇気なんて吾輩にはない!」
「なんで混ざる前提?」
「文化を地方から発信して、日本全体の芸術振興を支えるためでしょー? それに移転するって言っても一部の課だけで、全部じゃないんでしょ? 現に今ここにいるし」
「なら環境省も、環境保護の最前線として今すぐ西表島か沖縄のやんばるへ行ってこい! 現場主義だろ!」
「それはちょっと......」
「そういうとこだぞ、環境省。東京の利便性に甘えおって!」
(できれば東京にいたい)
心の声がダダ漏れじゃなかっただけ、自分を褒めたい。
「だってさぁぁ……京都って修学旅行生とインバウンドで溢れかえる大観光地じゃん! 吾輩は文化を司る庁であって、観光庁じゃないんだよぉ!」
「呼んだッスか?」
ガイドブックを読んでいた観光庁が顔を上げる。
「観光庁は良いよなぁ、インバウンド誘致でイケイケだし……吾輩なんて、伝統芸能の継承と文化財保護を背負って古都へ……」
「でも、京都は千年の都って言われてるだけあって文化財が沢山あるっス!神社仏閣や昔ながらの伝統事業......育てまくりッスよ!」
「それはそうだけどさぁ......」
「あ、お土産は八ツ橋期待してるッス!」
「吾輩は東京の、ビル群に囲まれた排気ガスの匂いが好きなんだよぉぉ……」
文化庁は教室の天井を見上げ、涙を流しながら哀愁たっぷりに言った。
「分かる!」
その言葉には、私も激しく同意する。
「排ガスとかヒートアイランド現象とか、環境的には大問題なんだけど、やっぱりこの利便性と都会の空気って離れづらいよね」
「お前……環境省の看板背負っておいてその発言はどうなんだよ」
文化庁が涙目を引っ込めて、すかさずジト目で見てくる。
すると、観光庁がニヤニヤと口を挟んできた。
「でもでも〜、京都も良い所ッスよ!川も山もあって、環境省ちゃんも相性バッチグーッス!!行っちゃえ行っちゃえ〜!」
「京都移転は文化庁だけで間に合ってます......」
「こんの東京依存勢!!」
すると、教室のあちこちから「東京最高!」「分かる〜」「物流網多いしな!」「ふるさと納税〜」「総務省、楽しそうだね......」という声がチラホラ上がった。
そして教壇に立っていた文科省が手を鳴らして静かにさせる。
「はーい、授業始めますよー」
そしてドンッと教卓に置いたのは分厚いプリントと問題集。
ちなみにこの学園では、問題集のことを「ワーク」と呼ぶと、重度の仕事中毒者(主に文科省、財務省、厚労省)が『仕事!? 働き方改革!? 予算執行!?』と過剰反応して手に負えなくなるため、「ワークという単語は極力口にしてはならない」という暗黙の校則が決まっている。
文科省の授業はだた問題集を解くだけっていう簡単な作業なんだけど......その量がとにかく多い。いや、マジで多い。
文科省は一瞬だけ教室を見回した。
「今日、みなさんには『教科書検定』をしてもらいます......」
「検定?」
「科目は担当ごとに分かれています。全国どこでも一定水準の教育が受けられるようにします。他にも、子供達にとって不適切な表現などの検閲が入ります」
文科省のその言葉に、教室の空気がピキッと凍りついた。
すかさず、ラーメンの美味しい作り方という本を読んでいた総務省がバッと手を挙げる。
「日本国憲法第21条第2項において『検閲は、これをしてはならない』って絶対禁止されてるから! 我が省が管轄する放送や表現の世界でも、そこはめちゃくちゃセンシティブなんだから、いくら文科省さんでも『検閲』って言葉を公式に使っちゃ駄目!僕らは表現の自由を死守しなきゃいけないんだから!」
「あ、失礼。口が滑りました。『検定』です」
五徹目の文科省は、全く悪びれもせず、淡々とチョークで黒板に書き直す。
「やり方は簡単ですよ。例えばここにある高校数学の教科書数十冊分を、隅から隅まで一問残らず全部解きます」
その瞬間、教室のあちこちから悲鳴にも似たざわめきが沸き起こる。
白紙なのはどこの出版社か分からないようにするためらしい。
「国語、数学、理科、社会、英語の主要科目以外にも音楽や道徳、家庭科などの副教科もありますよ。学年は小学校から高校まで様々なので、得意なとこお願いします」
教科書検定は、出題意図が学習指導要領の範囲を超えていないかを確認するためには当然の作業なんだって。
大変だね、教育って。
そんなことを思いながら頬杖をついていると、後ろから防衛装備庁がひそひそ話しかけてくる。
「文科省さんさ、いつ休んでるの?」
「知らない方が良いと思うよ……」
「うえぇ......教育は大変だね......」
うさぎの髪クリップ(命名:マイナちゃん)を付けた総務省が他人事のように呟く。たまにマイナちゃんが動いて、食堂でラーメンを食べているところを目撃されるので、この学園七不思議のひとつだよ。
どうやって動いているんだろうね......。
すると文科省が配布物を机にドンッと置いた。
「今回の資料は全部、自作です」
「今日で何徹ですか?」
「五徹です」
「よし!勝った!!」
ガッツポーズをする財務省。二人共、倒れないか心配だよ......。財務省は昔、床で雑魚寝をしていたからか腰が痛いと最近言っているし、文科省は激務のあまりよく内科や心療内科に通ってるし......。
「このプリント、今日中に目を通してください」
「全部!?」
「はい。これも未来を担う子供達のためです」
ふと横を見ると、財務省がプリントの枚数を数えて震えてた。
あぁ......ダメだ。
至急、この二人に睡眠を!!!
「東京にいたいぃぃぃ!!霞が関のサクラ大通りが恋しいよぉぉぉ」
うだうだと泣き叫ぶのは文化庁。京都に移転が決まってから毎日のように泣き叫んでる。
「京都も住めば都かもしれないじゃん?大丈夫だってー!それに、もう京都移転されたじゃん」
文化庁は2023年に京都に移転され、今は東京と京都の二拠点体勢で動いている。
「いや、京都は実際に都やったからな。鴨川の等間隔のカップルに混ざる勇気なんて吾輩にはない!」
「なんで混ざる前提?」
「文化を地方から発信して、日本全体の芸術振興を支えるためでしょー? それに移転するって言っても一部の課だけで、全部じゃないんでしょ? 現に今ここにいるし」
「なら環境省も、環境保護の最前線として今すぐ西表島か沖縄のやんばるへ行ってこい! 現場主義だろ!」
「それはちょっと......」
「そういうとこだぞ、環境省。東京の利便性に甘えおって!」
(できれば東京にいたい)
心の声がダダ漏れじゃなかっただけ、自分を褒めたい。
「だってさぁぁ……京都って修学旅行生とインバウンドで溢れかえる大観光地じゃん! 吾輩は文化を司る庁であって、観光庁じゃないんだよぉ!」
「呼んだッスか?」
ガイドブックを読んでいた観光庁が顔を上げる。
「観光庁は良いよなぁ、インバウンド誘致でイケイケだし……吾輩なんて、伝統芸能の継承と文化財保護を背負って古都へ……」
「でも、京都は千年の都って言われてるだけあって文化財が沢山あるっス!神社仏閣や昔ながらの伝統事業......育てまくりッスよ!」
「それはそうだけどさぁ......」
「あ、お土産は八ツ橋期待してるッス!」
「吾輩は東京の、ビル群に囲まれた排気ガスの匂いが好きなんだよぉぉ……」
文化庁は教室の天井を見上げ、涙を流しながら哀愁たっぷりに言った。
「分かる!」
その言葉には、私も激しく同意する。
「排ガスとかヒートアイランド現象とか、環境的には大問題なんだけど、やっぱりこの利便性と都会の空気って離れづらいよね」
「お前……環境省の看板背負っておいてその発言はどうなんだよ」
文化庁が涙目を引っ込めて、すかさずジト目で見てくる。
すると、観光庁がニヤニヤと口を挟んできた。
「でもでも〜、京都も良い所ッスよ!川も山もあって、環境省ちゃんも相性バッチグーッス!!行っちゃえ行っちゃえ〜!」
「京都移転は文化庁だけで間に合ってます......」
「こんの東京依存勢!!」
すると、教室のあちこちから「東京最高!」「分かる〜」「物流網多いしな!」「ふるさと納税〜」「総務省、楽しそうだね......」という声がチラホラ上がった。
そして教壇に立っていた文科省が手を鳴らして静かにさせる。
「はーい、授業始めますよー」
そしてドンッと教卓に置いたのは分厚いプリントと問題集。
ちなみにこの学園では、問題集のことを「ワーク」と呼ぶと、重度の仕事中毒者(主に文科省、財務省、厚労省)が『仕事!? 働き方改革!? 予算執行!?』と過剰反応して手に負えなくなるため、「ワークという単語は極力口にしてはならない」という暗黙の校則が決まっている。
文科省の授業はだた問題集を解くだけっていう簡単な作業なんだけど......その量がとにかく多い。いや、マジで多い。
文科省は一瞬だけ教室を見回した。
「今日、みなさんには『教科書検定』をしてもらいます......」
「検定?」
「科目は担当ごとに分かれています。全国どこでも一定水準の教育が受けられるようにします。他にも、子供達にとって不適切な表現などの検閲が入ります」
文科省のその言葉に、教室の空気がピキッと凍りついた。
すかさず、ラーメンの美味しい作り方という本を読んでいた総務省がバッと手を挙げる。
「日本国憲法第21条第2項において『検閲は、これをしてはならない』って絶対禁止されてるから! 我が省が管轄する放送や表現の世界でも、そこはめちゃくちゃセンシティブなんだから、いくら文科省さんでも『検閲』って言葉を公式に使っちゃ駄目!僕らは表現の自由を死守しなきゃいけないんだから!」
「あ、失礼。口が滑りました。『検定』です」
五徹目の文科省は、全く悪びれもせず、淡々とチョークで黒板に書き直す。
「やり方は簡単ですよ。例えばここにある高校数学の教科書数十冊分を、隅から隅まで一問残らず全部解きます」
その瞬間、教室のあちこちから悲鳴にも似たざわめきが沸き起こる。
白紙なのはどこの出版社か分からないようにするためらしい。
「国語、数学、理科、社会、英語の主要科目以外にも音楽や道徳、家庭科などの副教科もありますよ。学年は小学校から高校まで様々なので、得意なとこお願いします」
教科書検定は、出題意図が学習指導要領の範囲を超えていないかを確認するためには当然の作業なんだって。
大変だね、教育って。
そんなことを思いながら頬杖をついていると、後ろから防衛装備庁がひそひそ話しかけてくる。
「文科省さんさ、いつ休んでるの?」
「知らない方が良いと思うよ……」
「うえぇ......教育は大変だね......」
うさぎの髪クリップ(命名:マイナちゃん)を付けた総務省が他人事のように呟く。たまにマイナちゃんが動いて、食堂でラーメンを食べているところを目撃されるので、この学園七不思議のひとつだよ。
どうやって動いているんだろうね......。
すると文科省が配布物を机にドンッと置いた。
「今回の資料は全部、自作です」
「今日で何徹ですか?」
「五徹です」
「よし!勝った!!」
ガッツポーズをする財務省。二人共、倒れないか心配だよ......。財務省は昔、床で雑魚寝をしていたからか腰が痛いと最近言っているし、文科省は激務のあまりよく内科や心療内科に通ってるし......。
「このプリント、今日中に目を通してください」
「全部!?」
「はい。これも未来を担う子供達のためです」
ふと横を見ると、財務省がプリントの枚数を数えて震えてた。
あぁ......ダメだ。
至急、この二人に睡眠を!!!


