ブルームーン・カクテル
「意地をはらないで会いに行けばよかったんだ。あなたが苦しんでるなんて全然知らなかった。がむしゃらに働いて、大きなダイヤの指輪を持って迎えに行こう。それしか考えてなかった。どうして連絡してくれなかったんだ!」

 勢いよく置かれたシルバー・フィズのグラスが倒れ、カウンターから落ちる。

「しないよ。私達他人じゃない」
「っ!」

 恋人だった日もあった。ほんの夢のようなひと時。でも和寿のために身を引いてくれと彼の母親言われて、実際に身を引いたのは望海の意志だ。
 やっぱり頼れる年上の男性がいいからと笑った望海に、絶対に頼れる男になって迎えに行くと言った和寿の言葉を望海は信じなかった。否、信じてはいけないときつく自分を戒めた。彼には幸せが似合う。そうならなきゃいけない。

「喧嘩はやめよう? せっかく最後の誕生日だもの」
 本当なら来なかったはずの今日。
 何が望海をここへ呼んだのだろう。気がつくと約束の場所に立っていた。絶対に会おうと和寿が指定していた時間と場所に。
 望海を見て驚いた表情は、抱きしめようと手を伸ばした瞬間に泣きそうな顔に変わった。
 どこかから聞こえた声は、今日だけ二人が会える時間を誰かがくれたことを教えてくれた。

 そうね。これもある意味シンデレラじゃない? 時計の針が重なれば魔法はとけるんだから。

「明日が来なければいい」
 でも時計の針を見れば、明日まであと十分もない。
「もう一つ叶うなら、私のことをすべて忘れてほしいな」
「いやだ」
「じゃあ私も風の精になるってことで納得してよ。そばにいて、涙を拭ってあげる。でも泣かれたら私は永遠にさまようけどね」
 グラスを置いて、彼の唇にそっと自分のそれを押し当てる。

「最後にブルームーンを選ぶなんてひどい女だ」
 泣き笑いで返すキスを受けながら、望海の体はふっと風に変わる。

 ブルームーンのカクテル言葉は叶わぬ恋。
 でももう一つの意味は、――――完全なる……愛。
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