一大決心して大学院に進学したら、なぜか指導教官の外科医に溺愛されてます



(……心臓血管外科って……本当に、忙しいんだろうな)


私はあくまで臨床検査技師だ。

チーム医療の一員とはいえ、医師と直接の関わりは正直少ない。
彼らが手術室の扉の向こうで何をしているのか、本当の壮絶さは知らない。

だから、想像するしかない。

ただ、一度手術が始まれば、彼は十時間──あるいはそれ以上、ずっとあの無機質な空間に拘束されている。
生理現象すらコントロールし、人の命という重圧の中で、きっと一度も集中を切らすことは許されない。

その間、私はどうだろう。

輸血業務で緊急対応があったとしても、遠心機が回っている間や、抗原抗体反応の待ち時間には、ふっと息をつく隙間がある。
コーヒーを一口飲む余裕だってある。

この「密度の違い」を思うと、気が遠くなる。

オンコールで呼び出され、緊急手術で徹夜し、早朝には回診をして、その足で研究室へ。

睡眠時間すら削り取られた、皆無に等しいプライベートの合間。

そんな極限状態で、それでもなんとか時間を作って、恋愛もしようとしている。

「……ほんと、よくやるなぁ」

呆れを通り越して、感嘆のため息が出る。

タフだとか、ストイックだとか、そんな言葉じゃ片付けられない。
あの人の幸せは、一体どこにあるんだろう。

患者さんが助かった瞬間だろうか。

iPS細胞が動いた瞬間だろうか。


それとも──。


(……普段いつも無表情のあの人も、誰かの隣では、安心したように微笑んで眠ったりするんだろう)

そんな想像を、ふとした。






< 12 / 80 >

この作品をシェア

pagetop