一大決心して大学院に進学したら、なぜか指導教官の外科医に溺愛されてます
坂上先生は、この東都心大学大学院医学系研究科、循環器基礎研究室の博士課程一年生だ。歳はーー確か32歳、だった気がする。
心臓血管外科医でもあり、大学病院での臨床と掛け持ちのため、研究室にはほとんど姿を見せないが、実質的には修士一年である私の研究の指導者という立場にある。
ただ——私があまりにも研究者としてポンコツすぎるせいか、
時折、坂上先生の視線の奥に 「なんで高い学費払って入ってきた上にほぼ素人の面倒まで見なきゃいけないんだ」
というぼやきが透けて見える気がしてしまう。
こちらとしては、非医学科出身の修士一年にそこまで期待されても困るのだ。
そもそも研究室が人手不足なのは、断じて私の責任ではない。
しかもこっちはこっちで忙しい貴方のために、私自身の研究には一切関係がない心臓のiPS細胞の世話までやってあげているのに、それに関して感謝の言葉を述べられた経験は全くない。
コンタミしたら絶対に鬼の如く怒るくせに。
ちなみに対する私は修士1年だが、一応臨床検査技師だ。
この大学病院で心エコー室、輸血部と勤務してきて、坂上先生とは職場でも付き合いは長い。あの俺様外科医とお互いの立場からバトルを繰り広げることも多く、腐れ縁というやつかもしれない。
社会人5年目にして、一大決心をして院進を決めた矢先、まさかラボまで一緒になるなんて思わなかった。