一大決心して大学院に進学したら、なぜか指導教官の外科医に溺愛されてます


「……ベッドに行こう。こっちだ」

長いキスの余韻が残る中、彼が私の腰を抱いたまま、寝室の方へと促した。

その声に含まれる熱に、身体の芯が疼く。

けれど。 

私は足を踏み出すその直前で、彼のシャツの袖をぎゅっと掴んで立ち止まった。

「……栄人さん。待って、ください」

「……何だ」

彼が足を止め、怪訝そうに振り返る。
熱っぽい瞳の中にある、わずかな焦燥。

ここで流されてしまえば楽だということは分かっている。

でも、昨日のホテルとは違う。ここは彼の家で、私はシラフだ。
だからこそ、曖昧なままにしてはいけない。

「……その。やっぱり、ちゃんと確認させてください」

私は震える声で、けれど視線は逸らさずに彼を見上げた。

「私たちは──恋人同士、ですか?」

沈黙が落ちた。
自分の心臓の音だけがうるさい。
もしここで「ただの遊びだ」と言われたら? あるいは「重い」と突き放されたら?

恐怖で指先が冷たくなる。
彼は数秒間、私をじっと見下ろしていたが──。
やがて、呆れたように、深くため息をついた。

「……今更、何を聞いている」

「だ、だって……ちゃんと言葉にしてくれないと、不安で……」

「俺は、興味のない女を家に上げないし、シャワーも貸さない」

彼は私の手を取り、その薬指を親指で強くなぞった。

「それに、こんなことを遊びでする時間も体力も、俺には残っていない」

「……っ」

「……好きだ、有希」

不意打ちだった。
低く、少し照れくさそうな、けれど確かな響き。

「これで満足か?」

「……は、はい……!」

「なら、もう逃がさない」

彼は私を抱き上げると、そのまま寝室へと連れ去った。
宙に浮いた身体と、満たされた心。

東京タワーの明かりが滲んで見えるほど、私は幸福感で目眩を覚えていた。



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