一大決心して大学院に進学したら、なぜか指導教官の外科医に溺愛されてます


追い風となるように、研究も順調だった。

ある日の午後。二週に一度の成果報告の日。
「……研究の目的としては、拡張型心筋症における特定の遺伝子変異と、詳細な心機能指標との関連調査です。
解析対象となるSNPに関しては、本研究室が以前実施したGenome-Wide Association Study──GWASにより有意差が示唆された『rs26xxxxxx』、および『rs305xxx』の二変異を選定しました。
また、心機能の指標としては、従来のLVEFに加え、より鋭敏なGLSを用いました」

集まった数名のポスドクの先生方と、腕を組んで最前列に座る坂上先生の前で。

私は狭いミーティングルームの壁にスライドを投影しながら、説明を続けた。

患者群の属性。
外れ値の除外などのデータクリーニングのプロセス。
そういった前提条件を、噛まないように慎重につらつらと並べていく。

「……統計解析環境としては R version 4.1.2 を使用しました。
基本解析には stats パッケージを用い、データの可視化・描画には ggplot2 を用いました。
また、統計検定としては、年齢・性別・基礎疾患を共変量として調整した 多変量線形回帰分析を実施しました」

息を吸い、スライドを送る。
ここが一番の見せ場だ。

「……結果です。
二つの候補のうち、『rs305xxx』のアレルを持つ群において、GLSの有意な低下が認められました。
P値は 0.001未満。
すなわち、本遺伝子変異と心機能低下との間に、統計学的に極めて強い関連があることが示唆される結果となりました」

壁に映し出されているのは、R言語で描画した散布図。
遺伝子型ごとに色分けされたプロットの上を、綺麗な右下がりの回帰直線が貫いている。
本来ならバラつくはずのデータが、まるで何かの法則に導かれるように、その線の上に整列していた。

それは、私たちが追い求めていた「犯人」の尻尾を、確かに掴んだ瞬間だった。



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