一大決心して大学院に進学したら、なぜか指導教官の外科医に溺愛されてます


勢いよく返事をしながらも、私は心のどこか冷静な部分で理解していた。

『Circulation』。

もし本当にそんなトップジャーナルに載るとしても、その論文の筆頭著者は、私ではない。

十中八九、指導医である坂上先生か、あるいはこのプロジェクトを統括するポスドクの誰かだ。

私は修士課程の学生で、しかも本職は技師。

どれだけ実験をして、どれだけデータを解析しても、私の名前はせいぜい共著者の二番目か……いや、実験を手伝っただけの三番目に載れば御の字だろう。

(……そういう世界だもんね)

手柄は上の人間が持っていく。

それは病院組織でもアカデミアでも変わらない、暗黙のルール。
私が流した汗も、徹夜した時間も、最終的には「坂上栄人の業績」という大きな城を築くための、名もなき石ころの一つになる。

それでも。

私は目の前で不敵に笑う恋人を見つめた。

(……それでも、いい)

私の石が、貴方を少しでも高く押し上げるなら。
そして、その論文の謝辞の片隅にでも、私がいた証が残るなら。

それこそが、私たちが共に生きたという、何よりの証明になるはずだから。

「……さ、実験計画立てますよ! 先生!」

私は小さな嫉妬と寂しさを飲み込んで、明るくPCを開いた。



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