一大決心して大学院に進学したら、なぜか指導教官の外科医に溺愛されてます
宴もたけなわ、という言葉がふさわしい時間帯。
会場ではまだ多くの医師たちがグラスを片手に談笑しているけれど、主役であるはずの坂上先生が、ふと私の元へ戻ってきた。
「……高橋。カードキー、持ってるか」
「え? あ、はい。私の部屋のですが」
「違う。俺の部屋のだ。さっき上着と一緒に預けただろう」
言われてハッとする。そういえば会場入りする前、荷物持ちとして彼の私物一式を預かっていたのだった。
私は慌ててバッグの中を探ろうとしたが、彼はそれを片手で制した。
「ここじゃなくていい。……出るぞ」
「えっ、もうですか? まだ部長先生たちが……」
「顔は売った。これ以上、有象無象の世間話に付き合う義理はない」
彼は短くそう吐き捨てると、グラスをウェイターのトレイに無造作に戻した。
そして、周囲に気づかれない絶妙なタイミングで、私に顎で出口をしゃくる。
その仕草は「ついてこい」という絶対的な命令であり、同時に、この退屈な会場から私を連れ出す合図でもあった。