一大決心して大学院に進学したら、なぜか指導教官の外科医に溺愛されてます
ある日の休日の午後。
坂上先生は徹夜明けで泥のように眠っていた。
私は彼の部屋の散らかりように溜息をつき、デスクの上に積み上げられた書類の山を整理し始めた。
論文の資料、学会のパンフレット、コンビニのレシート。
その中に、封が開いたままの茶封筒が混ざっていた。
宛名は『東都心大学医学部附属病院』。
(……給与明細?)
見てはいけないと思いつつ、封筒から覗く紙片をつい引き抜いてしまった。
そして、そこに印字された数字を見て、時が止まった。
『支給額 0円』
……え?
目を疑った。桁が違うとか、少ないとかいう次元じゃない。ゼロだ。
交通費すら出ていない。
彼は毎日、朝から晩まで病棟を走り回り、手術に入り、カンファレンスで怒鳴られ、救急対応をしているのに。
大学病院からの対価は、文字通りゼロだった。
「……おい」
背後から低い声がして、手から明細書をひったくられた。
振り返ると、寝癖がついたままの坂上先生が、バツの悪そうな顔で立っていた。
「……勝手に見るな」
「ご、ごめんなさい……。でも、先生、これ……」
私は震える声で聞いた。
「0円って、どういうことですか? ……先生、あんなに働いてるのに」
坂上先生は明細書をクシャリと丸め、ゴミ箱に放り投げた。
「……安心しろ。給与は出てる。大学からじゃなく、外勤先からだけどな」
彼は冷蔵庫から水を取り出し、一気に飲み干した。