幼馴染の影と三年目の誤解 ――その笑顔は、私に向かない

*第41章 『祐真の罠、揺らぐ信頼』

由奈のスマホに届いた写真。
そこには――

祐真が由奈の肩を抱いている
ように見える角度の写真。

由奈の息が止まる。

「えっ……これ……
違います……こんなの……」

隼人は横から画面を見つめ、
眉を深く寄せた。

（……またか）

また“角度”を利用した偽造写真。
ファミレスで由奈が泣いていたあの時。
ほんの一瞬、祐真の手が由奈の肩に触れた。

その一瞬だけを切り取って、
まるで抱き寄せているように見せた写真。

隼人の拳に力がこもる。

（許さない。絶対に）

由奈は必死に隼人を見上げる。

「ちがいます……！
これは……祐真さんが勝手に……
わたし……隼人さんを……裏切るなんて……」

隼人は肩を震わせる。

「由奈。
分かってる。
俺は、信じてる」

その言葉に、由奈の目が潤む。

「ほんとうに……信じてくれるんですか……？」

隼人は即答した。

「信じる。“疑う理由が一つもない”。
由奈は俺の妻だ。
お前を信じない理由が、どこにある」

その言葉に由奈の涙が溢れた。

（ああ……
隼人さんは……私を……
本当に信じてくれる……）

けれど――
“罠”はそれだけでは終わらなかった。

スマホに、
さらにもう一通メッセージが届く。



《隼人に見せたくなければ
呼び出しに応じろ》

《話したいことがある》

《祐真》

⸻

由奈の顔が青ざめた。

「……っ、いやです……
また、わたしを……」

隼人はスマホをひったくるように手に取った。

メッセージを読み、
目の奥が鋭く光る。

（脅し……か）

静かに、しかし確実に怒りが膨れ上がる。

「祐真が……
由奈を脅してるんだな」

由奈は震える声で言った。

「ちがうんです……
これ以上……隼人さんに迷惑をかけたくなくて……
わたし……どうしたら……」

隼人は由奈の頬に手を添え、
涙を指で拭う。

「由奈。
もう“ひとりで抱えない”って……
言っただろ？」

由奈の目が揺れる。

「……はい……」

「俺が行く。
全部話をつける」

由奈は首を振って隼人の腕を掴んだ。

「だめです……！
祐真さんは……
隼人さんと話したら……もっと……」

「怖いか？」

隼人の声は穏やかだが、奥に固い決意があった。

由奈は小さく頷く。

「……こわい……
あの人……
わたしが泣くのを……喜んでいるみたいで……」

隼人の胸が締めつけられた。

（今すぐにでも殴りたい）

しかし、
隼人は拳をぐっと握りしめ、自分を制した。

（由奈が怖がるなら……俺が冷静でいないと）

「大丈夫だ。
絶対に、もう由奈に触れさせない」

隼人はそう告げると、
由奈をそっと抱き寄せた。

由奈は隼人の胸に顔を押し当て、
小さく震えながら泣いた。

（隼人さん……
わたしを置いて行かないで……）

隼人は優しく頭を撫でる。

「祐真にも麗華にも――
もう二度と……由奈を泣かせさせない」

低い声が、
部屋に深く響いた。



その頃――
隼人の部屋の向かい側。

薄暗い非常階段に、
祐真はひとり立っていた。

スマホを見つめ、
口の端に狂気を含んだ笑みを浮かべる。

「返信しないのか……
じゃあ、どうするんだよ隼人。
お前が来いよ」

祐真は壁に頭を預け、
薄く呟いた。

「由奈は……
お前には……似合わない」

その瞳には、
未練と執着と、
醜い闇が渦巻いていた。



部屋に戻った隼人は、
深く息を吸い込んだ。

「由奈。
これからは……俺が守る。
どんな罠でも、どんな噂でも……」

そして隼人は続けた。

「次は――
俺の番だ」

由奈の目が驚きに見開かれた。

隼人の瞳に宿ったのは、
弱さではなく、確かな強さ。

今までと違う。

麗華も祐真も、
ここから先は“もう通用しない”。

夜の静けさを破るように、
由奈のスマホが再び震えた。

今度の送り主は――

麗華。

その画面を見た瞬間、
隼人の瞳が細く鋭く光った。

嵐の中心へ向けて――
隼人の反撃が、ついに始まる。