幼馴染の影と三年目の誤解 ――その笑顔は、私に向かない
第49章 『消えない傷跡——由奈の心と、夫の覚悟』
祐真との対決を終えた夜。
家には静けさが戻り、
キッチンからは
温かいスープの香りがほのかに漂っていた。
隼人は由奈の向かいに座り、
食べられるだけ食べてほしいと
スープをよそっている。
「……もう、大丈夫だよ」
由奈は小さく頷き、
レンゲを手に取ったが、
半分ほど口にしたところで、
ふと動きを止めた。
目を伏せ、
肩が小さく震えている。
隼人はそっとレンゲを置き、
由奈の手を包む。
「無理しなくていい。
食べられなかったら、
後で温め直すから」
由奈はゆっくり首を振る。
「……ごめんなさい。
こんな……普通の時間なのに……
急に胸が……苦しくなって……」
(そうだ。
終わってないんだ。
由奈の中では)
隼人は椅子を回し、
由奈の隣へ移動した。
「由奈。
泣きたいときは泣いていい」
「泣きたくない……のに……
勝手に……涙が……」
由奈の目から、ぽろりと涙が落ちた。
「こわかった……
ほんとうに……こわかったの……
隼人さんが……
わたしのこと……
嫌いになったら……って」
隼人の胸が締めつけられた。
「嫌いになるわけない」
「でも……
麗華さんに“弱い女”だって言われて……
祐真さんには“俺の方が分かってる”なんて……
わたし……
自分が何もできなくて……
ふたりのほうが正しいのかなって……
思ってしまって……」
隼人は由奈の頬に両手を添え、
ぎゅっと引き寄せ、
額を触れ合わせる。
「由奈。
お前は間違ってなんかいない。
弱くなんかない」
由奈の涙が隼人の指に落ちる。
「でも……わたし……
泣いてばかりで……
また迷惑を……」
「迷惑じゃない。
何度でも言う。
お前は俺の妻だ」
隼人の声は静かで、温かく、
だけどどこか震えていた。
「由奈が泣くたびに……
怖かったのは俺なんだ。
“ちゃんと守れていないのかもしれない”
って思うのが、何より怖かった」
由奈は驚いたように瞳を揺らした。
「隼人さん……
こわかったのは……わたしだけじゃ……なかったの?」
「ああ。
俺も怖かった」
隼人は由奈の手を取り、
胸に押し当てる。
「ほら、まだ震えてる」
由奈は隼人の鼓動を感じた。
強くて、速くて、
必死に抑えていた証のように。
その鼓動が、
涙を再び溢れさせた。
「……隼人さん……
もう……ひとりにしないで……」
隼人は由奈を抱きしめた。
ほんの少し力を込め、
安心させるように。
「しない。
絶対に」
「ほんとに……?」
「嘘は言わない。
由奈が望むなら……
ずっとそばにいる」
由奈は胸に顔を埋め、
泣きながら笑った。
「……ずっと……いてほしい……」
隼人の腕が、
優しく、しかし確固とした強さで
由奈の細い体を包み込む。
「これからは、
由奈を傷つけるものは全部排除する。
噂も、影も、誰かの悪意も……
俺が全部遮る」
「……隼人さん……」
「俺は夫だ。
お前を守る責任がある」
その声には迷いがなく、
苦しみを経て手に入れた
確固たる愛が宿っていた。
由奈は震える声で、
「わたしも……
隼人さんの妻として……
強くなりたい……
隼人さんの隣に……ちゃんと立ちたい」
と言った。
隼人は目を細め、
微笑んだ。
「もう立ってるよ。
ずっと隣に」
そして
由奈の髪にそっとキスを落とした。
(大丈夫だ。
もう泣かせない)
隼人は心の中で誓う。
嫁を守る。
それが俺の人生だ。
窓の外は、
さっきまでの夕陽が消え、
静かに夜が訪れようとしていた。
だがその夜は、
決して恐怖の夜ではない。
二人の心が
ようやくひとつの温かさへと戻った夜だった。
家には静けさが戻り、
キッチンからは
温かいスープの香りがほのかに漂っていた。
隼人は由奈の向かいに座り、
食べられるだけ食べてほしいと
スープをよそっている。
「……もう、大丈夫だよ」
由奈は小さく頷き、
レンゲを手に取ったが、
半分ほど口にしたところで、
ふと動きを止めた。
目を伏せ、
肩が小さく震えている。
隼人はそっとレンゲを置き、
由奈の手を包む。
「無理しなくていい。
食べられなかったら、
後で温め直すから」
由奈はゆっくり首を振る。
「……ごめんなさい。
こんな……普通の時間なのに……
急に胸が……苦しくなって……」
(そうだ。
終わってないんだ。
由奈の中では)
隼人は椅子を回し、
由奈の隣へ移動した。
「由奈。
泣きたいときは泣いていい」
「泣きたくない……のに……
勝手に……涙が……」
由奈の目から、ぽろりと涙が落ちた。
「こわかった……
ほんとうに……こわかったの……
隼人さんが……
わたしのこと……
嫌いになったら……って」
隼人の胸が締めつけられた。
「嫌いになるわけない」
「でも……
麗華さんに“弱い女”だって言われて……
祐真さんには“俺の方が分かってる”なんて……
わたし……
自分が何もできなくて……
ふたりのほうが正しいのかなって……
思ってしまって……」
隼人は由奈の頬に両手を添え、
ぎゅっと引き寄せ、
額を触れ合わせる。
「由奈。
お前は間違ってなんかいない。
弱くなんかない」
由奈の涙が隼人の指に落ちる。
「でも……わたし……
泣いてばかりで……
また迷惑を……」
「迷惑じゃない。
何度でも言う。
お前は俺の妻だ」
隼人の声は静かで、温かく、
だけどどこか震えていた。
「由奈が泣くたびに……
怖かったのは俺なんだ。
“ちゃんと守れていないのかもしれない”
って思うのが、何より怖かった」
由奈は驚いたように瞳を揺らした。
「隼人さん……
こわかったのは……わたしだけじゃ……なかったの?」
「ああ。
俺も怖かった」
隼人は由奈の手を取り、
胸に押し当てる。
「ほら、まだ震えてる」
由奈は隼人の鼓動を感じた。
強くて、速くて、
必死に抑えていた証のように。
その鼓動が、
涙を再び溢れさせた。
「……隼人さん……
もう……ひとりにしないで……」
隼人は由奈を抱きしめた。
ほんの少し力を込め、
安心させるように。
「しない。
絶対に」
「ほんとに……?」
「嘘は言わない。
由奈が望むなら……
ずっとそばにいる」
由奈は胸に顔を埋め、
泣きながら笑った。
「……ずっと……いてほしい……」
隼人の腕が、
優しく、しかし確固とした強さで
由奈の細い体を包み込む。
「これからは、
由奈を傷つけるものは全部排除する。
噂も、影も、誰かの悪意も……
俺が全部遮る」
「……隼人さん……」
「俺は夫だ。
お前を守る責任がある」
その声には迷いがなく、
苦しみを経て手に入れた
確固たる愛が宿っていた。
由奈は震える声で、
「わたしも……
隼人さんの妻として……
強くなりたい……
隼人さんの隣に……ちゃんと立ちたい」
と言った。
隼人は目を細め、
微笑んだ。
「もう立ってるよ。
ずっと隣に」
そして
由奈の髪にそっとキスを落とした。
(大丈夫だ。
もう泣かせない)
隼人は心の中で誓う。
嫁を守る。
それが俺の人生だ。
窓の外は、
さっきまでの夕陽が消え、
静かに夜が訪れようとしていた。
だがその夜は、
決して恐怖の夜ではない。
二人の心が
ようやくひとつの温かさへと戻った夜だった。